以前に書いた『雪山の魅力』に引き続き、初心者向け記事です。
雪山に登るための道具の選び方について、個人的見解を交えながら説明させていただきたいと思います。
今回は、『岳人の魂』とも呼ばれる、森林限界を越えるような雪山での必須装備、
ピッケルについて書いていきます。
ピッケルの選び方とあれこれ
はじめに
ピッケルとは、つるはしのような形状をしている雪山登山用の道具です。
歩行時に杖として使ったり、急斜面を登る時に尖った先端部を雪に突き刺して手がかりにしたり、滑落した場合に先端を刺して滑落停止したりするなどの使い方をします。
基本的になだらかな雪山では使う場面はなく、主に雪山の急斜面や切り立った断崖のような場所を登る時に使用します。
行動に危険が伴う場所で、自分の命を守るために使用する道具です。
危険な場所で使う道具となるので、どんな製品を買ったらいいか、慎重に検討していきたいところです。
ちなみにピッケル(pickel)はドイツ語です。登山用語はドイツ語由来が多いです。
英語ではピッケルのことをアイスアックス(ice axe)と言います。
最近は英語標準化の流れか、日本でもピッケルではなくアックスと呼ばれることもあります。
少し話が逸れましたが、ピッケルの選び方について、ディーアイが考えていることをつらつらと述べていきたいと思います。
どんな長さがおすすめ?
ピッケルには様々なタイプがあり、長さも様々です。どんな長さのピッケルを選んだらいいのか、初心者は迷うことだと思います。
よく言われる選び方は、「ピッケルを持って立った時に下端が踝にくるあたり」というものがあります。
登山用品店の店員さんにピッケルの選び方を聞くと、高確率でマニュアル的に上記のようなことを説明をされると思います。
選び方の基準としては間違いではないので、参考のひとつとして覚えておいてください。
ピッケルの短長に関しては、「長ければ杖代わりになるし、短ければクライミングの際に取り回しが楽」という意見もよく聞きます。
一方で、「杖代わりに使うなら、ストックで十分。ピッケルは滑落のリスクのある場所(岩場や急斜面等)で使うから短めの物の方が良い」という意見にも一理ありです。
でも、山頂付近でヘロヘロに疲れている時は、ピッケルにすがるようにして歩く場合もなくはないです。
そんな時にはちょっと長めのピッケルだと体重を預けて息を整えられるので、ありがたく感じたりします。
色々意見があって迷うところですが、自分の山行スタイルに合わせて選びましょう。
と言ってしまうと、「山行スタイルが定まってねぇから初心者なんだよ!」
と、怒りの罵声を浴びせられてしまいそうです。
安いの買っときましょう。
買い替えする場合の経済的負担少なくていいっすよ。
山行スタイルが定まったところで買い直せばいいという、ブン投げ意見。
Bタイプ?Tタイプ?強度別の選び方
ピッケルには強度によってBタイプとTタイプという2種類に分類されています。
CENというところで定められている強度の基準です。
BはBasic(ベーシック)で、TはTechnical(テクニカル)という意味であり、強度的には、T>Bとなっています。
Bタイプ=280kg
Tタイプ=400kg
タイプ別に、上記の程度まで耐えられるようにピッケルは製造されています。
「Tタイプの方が強度があるし、丈夫なTタイプのピッケルを選んだほうが安全!」
と、どこかの誰かが言っているのを聞いたことがあります。
しかし、Bタイプのピッケルでも、通常の雪山(一般的なルート)で破壊するのは至難の業です。
一般雪山登山でのTタイプ推しに対しては、「じゃあBタイプのピッケルをブッ壊してみろや!」と反論させてもらいます。
一般的な雪山登山ならBタイプのピッケル
クライミング的な要素があるならTタイプのピッケル
と、ざっくり理解しておけば問題ないと思います。
余談ですが、アイスクライミング用のピッケルににおいては、氷への貫通力を高めるために、ピック(先端部)をあえて薄く作ってあるためにBタイプへ分類されている製品もあります。
Tタイプ=最強王者=強い人用
Bタイプ=弱っちいザコ=弱い人用
という考え方ではなく、適材適所だと思ってください。
ベントシャフト・ストレートシャフト
ストレートシャフトは、まっすぐな杖のようなタイプのピッケルです。
杖として使うには、違和感なく使用できるデザインと思います。
対してベントシャフトは、捧の部分が少し曲がっている形状となります。
これは、ストレートシャフトよりも雪面に突き刺しやすい形状です。
とっさに滑落を止める際や、ピッケルを岩などに引っ掛けてよじ登る際に威力を発揮します。
厳しい斜面やクライミング的な要素がある登山においてはベントシャフトの方が使いやすいと言えます。
しかし、大多数の人は、いきなりそんなアドベンチャーをすることはないと思いますし、日本の一般的な雪山ルートであれば、ストレートシャフトで十分であるような気がします。
ベントシャフトの方がなんとなくカッコイイから…で選んでもらっても全く問題はないと思いますので、その辺はお好みで。
ヤベエ“自称上級者”に注意
グーグル先生やユーチューブ先生に教えを頂いている、現在のデジタル世代登山者たちは、インターネットを駆使して情報を得ていることでしょう。
自分も雪山は独学で、はじめのうちは主にインターネットや雪山登山の技術書などで勉強しました。
運よく何シーズンも冬山を生き延び、ある程度経験を積んでくると分かってくること。
ネットの情報はたしかに便利な反面
物を売りたい業界の手先による安易な雪山への扇動…
ほぼ素人同然の人間が初心者を教えているという恐ろしい構図…
俺初心者だけどこんなスゲーとこ登っちゃったよ的な蛮勇の誇示(実際は天気などの条件がよかっただけの場合も)…
等々、アナタを雪山の先の世界、つまり地獄にご招待するための罠がたくさん仕掛けてあること。
これから述べる滑落停止の話にしたって、「○○と□□と△△で俺は滑落を止めたぜ!」と言う方もいらっしゃるんですが、転んでいるということ自体、単に歩き方がヘタなだけだったりします。素性も分からぬ輩の言うことはあまり信じすぎない方が身のためです。
滑落停止のための使用について
ここでひとつ、ディーアイがとっさの制動で滑落を止めた話をしましょう。
時は数年前の12月、とある雪山での一場面
半分氷のように硬くなった雪山の斜面をトラバース(横移動)をしているディーアイ…。
足すぐ下に広がる続く斜面を見下ろすと、恐ろしげな雪と氷の滑り台は長く長く続いており、滑り出したら数百mは止まりそうもありません。落ちたら楽々下山と同時に魂は天界へと飛び出せそうです。
その時は、ヘロヘロに疲れきった下山途中で、集中力は少し散漫になっていたかもしれません。
「あぁ、早く下山してうまいもの食いたいなぁ。パサパサの行動食にはもううんざりだ」
なんてよそ事を考えながら次の一歩を踏み出したその瞬間!
恐らく、アイゼンの爪がまっすぐに(半ば氷化した)斜面に入らなかったからでしょう、ズルッとバランスを崩して転んでしまいました。
とっさにピッケルの先端を固い雪面に突き刺し、スピードが出る前、転倒とほぼ同時に滑落停止動作に入ったので、転んだだけで滑落を免れることができました。
雪山でのトレーニングのひとつに、滑落停止訓練というのがあります。
あえて急斜面でズッコケて、滑落を止めるという訓練です。
自分は、冬山でのトレーニングでは滑落停止訓練は必須だと強く思っています。
できたらカチカチの斜面でやることをおすすめします。
固く締まった雪の急斜面上で滑落して、一旦スピードが付いてしまったらまず止まれないということを学ぶのは有益です。
スピードが出る前の初動で止めないと、滑落を止めることはまず不可能。
逆に、ピッケルで簡単に止めることのできるような斜面での滑落は、ぶっちゃけピッケルじゃなくても凍ったバナナでも止められるような気が…。凍ったバナナは試したことないですが。
「ヤバイ斜面では、絶対にコケちゃなんねぇ」ということがわかれば、より緊張感をもって、繊細な足さばきで雪山歩きができると思います。
また、エキスパートなら、長いピッケルだろうが短いのであろうが、ストレートだろうがベントシャフトだろうが、体勢が崩れた瞬間に先端部(ピック) を雪面に突き刺し、スピードが出ないうちに止められます。
技術さえあれば、道具の性能差はカバー可能です。
安いピッケルを握り締め、雪上訓練(通称:雪訓)に励みましょう。
おすすめ製品
さて、ここから商業的コーナーの始まりです。
おすすめのピッケルをご紹介させてもらいます。
最初の一本にはこういうタイプで必要十分ではないかと。
冬の伊吹山や天狗岳に登るには全く問題ありません。
厳冬期の西穂高岳あたりでも普通に使えると思います。むしろ、ピッケルの性能というよりも、使用者がまともに使えるかどうかの方が大きいです。
モンベルの製品だったらもう少し安く買えるかもしれません。
限られた予算の中、買い替えはしたくないので初めの一本から良い物がいい!
そういう考え方も決して間違いではありません。
そんな方におすすめするのが以下。サイズさえ間違えなければ恐らく長く使えると思います。
できれば高い方を買ってもらえると色々な意味で嬉しいです。
おわりに
役に立つのか立たないのか、結論を出しているようで出していないような個人的見解をダラダラ書いてきました。
最終的には、ピッケルの性能差より、使う側が道具をしっかり使えるか使えないかというところが最も大きいので、あれこれ悩んで買うのもいいですが、安いの買ってしっかりと使い方を学習して、それから自分のスタイルに合った一本を買うのが良いのではないかと思っています。
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