スイスで出会った香港人と、アイスクライミングのために湯川・岩根山荘に行った話。
※今回のブログ内容は、ほぼ雑記となります。
氷結状況の確認に来たアイスクライマーの方々は、
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湯川・岩根山荘でのアイスクライミング
はじめに
時を遡ること数年前…
彼との出会いは、スイス・ツェルマットのホテル・バーンホフ(新田次郎の小説『栄光の岩壁』で最後の方に出てくる宿)でした。
そこは、ホテルで一番安い天井裏の相部屋。
安いビールを飲んでダラダラしているところに、登山後っぽい雰囲気というか格好をした男性が現れ、隣のベッドに腰をおろしました。
少し疲れを残した感はあっても落ち着いた動作、無駄の無い肉体、精気に満ちた眼光。まさに山屋といった雰囲気。
一見したところ日本人っぽかったので、基本人見知りなんですが話しかけてみることにしました。
「こんちは~。どっか登ってきたンすか~?」
外人のマネして薄ら笑いを浮かべながらフランクな感じで。上記のような言葉を投げかけてみたところ、その男性は一瞬怪訝な表情をしてから、
「お前何言ってんのかわかんねぇよ」みたいなジェスチャーを返してくれました。
それが、彼(Mr.チャン)との出会いでした。
そのあと色々話をして、彼が香港人(中国人と自称しないのはプライドか)であるということ。ヨーロッパアルプスに何度も登りに来ていること。マッターホルンに登頂してきたことなどを知りました。
マッターホルン(4478m)の参考画像
それから自炊室で一緒に食事をして(チキンの切れ端あげたらビールを貰ったぜ!)
仲良くなり、Facebookで友達申請なんかしちゃったりして。
「日本に来るなら是非連絡くださいな。ローカルピーポー(日本人)しか知らないような山を案内してあげますよ」
みたいなことを言い残し、その翌日にMr.チャンとは別れました。
突然の連絡
ツェルマットでの出会いから数年後、
時は2018年1月20日
仕事が終わった後、Facebookのメッセンジャー経由でMr.チャンからのメッセージが届いているのに気づきました。
※以下のやり取りは英語(中学生レベル)を通して行われました。そのまま晒すとプライバシーの侵害になるので多少脚色してあります。
Mr.チャン「ニイハオ! お久しぶりネ。ワタシ今度日本に行くこと決めたアルね。期間は1月22日~1月26日アル。白馬でスキーするネ。時間あったら会おうネ。ヨロシク」
ディーアイ(私)「お久しぶりで候。拙者、23日が休みでござる。その日なら予定を合わせることが出来そうで候。もし宣くば、拙者と共に氷攀(あいすくらいみんぐ)を行おうでは御座らぬか? 良き返事をお待ち申しております」
Mr.チャン「ナイスなアイデアネ。それじゃ、白馬からアナタのいる諏訪の方まで運転してくネ。氷瀑までは車からアクセスいいとこ希望アル」
ディーアイ「承知申した。氷瀑の大きさこそ異国に劣れはするものの、原住民のみが知っているような、大多数の異国民は存ぜぬような場所にお連れ致しましょうぞ。拙者はこの地の氷瀑状況には多少明るいでござる」
Mr.チャン「わかったヨ。楽しみネ。諏訪には9:30頃行けばいいアルか?」
ディーアイ「否々、氷瀑の地へは四輪駆動車で弐時間は掛かり候。午前八時丁度、諏訪湖湖畔公園にて待たせて頂きたい旨、宜しくお願い申し上げまする。尚、気象予報では日本列島に大雪の予報がありまする。くれぐれも安全運転で来られ。時間に余裕を持たれて出られる事を進言させて頂きたく候」
Mr.チャン「ノープロブレム。では、現地デ。再見」
行き先の選定
行き先を任せろと言ってはみたものの、行き先を選ぶのはなかなかのプレッシャーでした。
何せ相手はヨーロッパアルプスを何峰も登った国際派。
ショボイ場所に招待しようものなら、
「日本ってこんなクソみたいな氷しかないんだ~。かわいそう。ププッ」
とか、不当な評価を下されかねません。
アジア経済の一大拠点である香港の民に対して、日本代表としてひとりで交渉に挑むような、とんでもない重圧感。
相手の要求は、アプローチの短いとこ。
天気予報によると、これから大雪が降るらしく山の奥のほうには車は入れられそうにない。
歩くにしたって、雪が深く積もるようなところとなればアプローチに時間がかかりすぎる…。
うーんこれは困ったゾ。
いろいろ悩んだ結果、行き先は南牧村にある湯川に決めました。
ここなら駐車場からアイスクライミングエリアまでのアプローチも近いし、
建物等からも比較的近いから、多少雪が積もっても車の運転は問題なさそうだし、
氷柱は高さこそないものの、色々なバリエーションがあって面白いので、
なかなか良い感じに今回の要求や条件を満たす場所だと思いました。
諏訪湖での再会
数日前からの気象予報の通り、1月22日から、南岸低気圧が日本を直撃。
東京では積雪が20cmを記録するなど、日本各地は雪により白くデコレーションされた状態に陥っていました
自分は7時ごろ余裕の目覚め。窓の外を見ると、信州の積雪はそれほどではない模様。
今頃Mr.チャンは頑張って運転しているんだろうな~。大変だな~。白馬からだと6時出発だから、5時台に起きたんだろうな~。
とか、色々考えながら優雅にパンとコーヒーを食して準備を整えます。
日本人らしく、約束の時間の8:00には、待ち合わせ場所には最適な諏訪地域のランドマーク的存在、諏訪湖に到着。
おう…量が少ないとは言え、積雪は積雪だな。
そういえば、きのう日本に到着したばかりのMr.チャンは、
慣れない日本の道路事情の中、
年に数回あるかないかの大雪が降っている状況で、
少なくとも5時台の早朝に起きて、
ひとりで慣れない信州の道路を90km以上(2時間ほど)運転して、
一周約16kmの諏訪湖の一地点を目指して来てるんだ。
いきなりえらくハードルの高いことをさせてしまって、
本当にこの場所で会えるのかどうか不安を覚えました。
また、どうせ外人って時間にルーズだし、雪で交通的にのろのろ運転になるだろうし、時間通りなんてことは絶対にならないことに今更気づきました。
やっぱ7時集合とか相手には言っといて、自分は8時に諏訪湖に行くとかにした方が良かったのかな~
と、戦略的な甘さをかみ締めながら、じっくりとMr.チャンの到着を待つことになりました。
で、結論から言うと8:30ごろにはMr.チャンから「着いたよ~」の連絡があり、
8:40には自分のおんぼろカーに一緒に乗り込んで仲良く出発することができました。
ヨカッタヨカッタ。
コンビニでの一幕
Mr.チャンは朝食をまだ食べていないと言うし、自分もまだクライミング中に食べる行動食を買っていなかったので、道の途中で7の付くコンビニに寄りました。
車を停めたところで、Mr.チャンが一言。
「さっき置いてきた車の中に財布忘れちゃった。金ないわ」
・・・
自分の財布をちらりとのぞくと、中には1万円札1枚と、5千円札1枚が入っていました。
5千円札の方を渡しました。
こういうとき、迷わず1万円の方を渡せるような器の大きい人間(金に困っていない人間)に、私はなりたい。
まぁ、気前良く5千円札を渡したことで、
香港人の日本(人)に対する好感度+50ptって感じですね。
湯川の氷結状況
さて、ここからが湯川の状況の報告となります。
2018年1月23日
最後の農家のところを過ぎた場所から、道路は雪に埋まっていたので車ラッセル。
道路が雪に埋もれているせいで路面状況が分からず、余計なリスクは背負いたくないので、アプローチに30分かけることにして広場に駐車しました。
その奥の、湯川渓谷へと続く林道は、当然ノートレース。
積雪はブーツ丈ぐらいです。降りたてで軽いので、歩くのに特に支障はありませんでした。
林道脇の氷柱…なんかショボイです。
先シーズンの1月後半には、林道脇に立派な氷柱を何度も見た記憶があるのですが。
流れる水と、黒々とした岩肌。
不安が募ります。
林道をしばらく歩くと、眼下にそれっぽい氷柱が見えてきました。
ジャージャー流れる沢を渡渉する羽目に。
去年来たときと比べると明らかに雪と氷の量が少なく、液体成分が多めです。
白髪エリアに到着。
明らかに氷柱の発達がイマイチです。
手前には幅1mぐらい?の沢が流れていて、靴を濡らしながら渡渉が必要な感じです。
右の氷柱は、高さはありますがやせ細っている印象です。
登ろうと思えば登れなくはないか…といった感じ。
テンション急降下です。
ちなみに下の画像が去年の同時期に撮った湯川の写真です。
Mr.チャンも氷柱の貧相っぷりに不安が隠せないような感じで
「本当にここ登るの…?」
といった表情をしています。
1分考えましたが、早々に撤退することに決めました。
気分の乗らない、発達の薄い氷柱登りに時間を費やすのは勿体無いと考え、
プランBに移行です。
記録用に写真だけ数枚撮って、その場を後にしました。
Mr.チャンには済まない気持ちでいっぱいです。
「相手は自然だよ。山だよ。仕方がないよ」
とフォローを入れてくれましたが、
これは確実に、香港人の日本(人)に対する好感度-500ptです。
帰りの渡渉場面。
沢ポチャするかもとハラハラしながらカメラを構えていました。
無事に渡りきったので面白くありません。
帰りの林道。雪の下は氷結していました。
自分が1分前にコケたところでコケるMr.チャン。
ゲラゲラ笑ながら写真を撮る自分。
これも確実に、香港人の日本(人)に対する好感度-100ptです。
岩根山荘アイスツリー
切り替えて行こう。プランBに移行。
湯川の代替案はココ。
一応念のため、電話で登れるか確認してから現地に向かいました。
せめて少しでも、アイスクライミングらしいことをしないと帰れない。
アプローチ1分、コンディションは電話1本で確認可能。
人工氷壁って素晴らしい。
初回登録料500円、1日利用料2,000円でひとりあたり2,500円でした。
登録料は今シーズン限りで、来シーズンは再登録必要とのこと。
ちなみに利用時間は日没までだそうです。
人工氷壁の脇に入り口があります。
中にある階段を登っていくと…
人工氷壁の上に出ることができます。
上でスリングとカラビナを使って支点とし、
落ちた時に地面に衝突しないようにロープをたらします。
万一のことを考え、より安全性を高めるために、
支点は2箇所以上で取るのが決まりです。
人工氷壁を登るMr.チャン。
上までたどり着いた様子のMr.チャン。
その後、自分も氷壁を登りましたが、Mr.チャンは氷壁を登りきって下りてきたばかりの自分に向かって
「ナイスなクライミングだ。まだ余裕がありそうだね。もう一本行ってみよう!」
と、ニヤリと笑いながら言い放ち、休憩無しで何本も登らせた鬼畜男でした。
近づくと、氷壁は所々によって複雑な形をしています。
時々雪が降り、風も強い日でした。
こんな日でも問題なくアイスクライミングができ、寒ければ暖かい山荘内で休憩できる…。
人によってはヌルくて刺激が足りないと思うかもしれませんが、たまにはこんな休日も良いかもしれません。
Mr.チャン、人工氷壁を登るのは初めてだったようで、それなりに楽しんでくれたようでした。
色々マイナス要素もありましたが、多分香港人の日本(人)に対する好感度は総合的にはプラスになったのではないでしょうか?
いやー、ヨカッタヨカッタ。
15本ぐらい(ディーアイの回数)登ってから、岩根山荘を後にしました。
諏訪湖あたりまで戻ってきたら、Mr.チャンともお別れです。
彼の車の中に忘れられていた彼の財布の中から、しっかりと5千円は返してもらいました。
年上のオッサンに小遣いやった覚えはありません。
Mr.チャン。楽しい時間をどうもありがとうございました。
日本で過ごす残りの日々が、充実したものになることを願っています。
スイスでの偶然の出会は、こうして日本での楽しいアイスクライミングに繋がっていきました。
人と人の出会いは、どこでどんな結果をもたらすのか予想もつかないです。
出会いに乾杯し、ビール(第3)を飲みながら、事の顛末を記す。
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