厳冬期の山ではあらゆるものが凍りつきます。食料も、場合によってはガチガチに凍ってしまうので注意が必要です。今回の記事では、食料(行動食)が低温にさらされるとどのように変化するのか、実験してみましたという内容です。厳冬期登山などでの行動食選択の参考になれば幸いです。
冬山で凍っても大丈夫な食料を調査【厳冬期想定・食レポ】
厳冬期の山では、気温は-10℃を軽く下回ります。
はじめに
『八甲田山死の彷徨』(はっこうださんしのほうこう)という山岳小説があります。
冬山の恐ろしさを伝えてくれる名作です。
~あらすじ~
1902年(今から100年以上前)、旧日本軍が寒い時期に訓練しようとして、雪山(厳冬の八甲田山)に行ったら記録的な大寒波に見舞われて軍人さんが大勢遭難死してしまった。
その小説の中にはこんなエピソードがあります。
あまりの寒さに背嚢(今で言うバックパック)に入れていたおにぎりは凍って食べられなくなってしまいました。一方で、雪国出身者は、寒さに備えて外套(今で言うジャケット)の内側におにぎりを入れていたので、そのおにぎりは凍らずに済みました。
この事例を通して言えるのは、超寒い冬山では、おにぎりなどの食品は凍ってしまうリスクがあるということ。おにぎりに含まれる水分が凍ってしまうことが原因です。
エネルギー補給に欠かせない食事が、人里離れた山中で食べられなくなってしまうのは、非常にマズイです。栄養摂取不可→エネルギー枯渇→疲労凍死となる恐れがあります。
★冬山で食品が凍るリスクを避ける方法は主に3つ。
1つ目は、食品が凍らないように保温すること。
2つ目は、凍る前に食べること。
3つ目は、凍らない(または凍っても食べられる)食品を持っていくこと。
【北横岳ロープウェイにて】-10℃を下回るような環境の中にいると、水分は凍ってしまいます。
安全な冬山のため、冬山での食料(主には行動食)選択の一助とすべく、山のブログ『のぼるひと』作者のディーアイは、実験をしてみることにしました。
【実験内容】
★冬山登山を想定して、食料が低温にさらされるとどのような変化をするのか調査する。
【実験方法】
★登山で行動食として選択されることが多い食品を、自宅の冷凍庫に入れる。
★半日以上冷凍庫(-18℃~20℃ぐらい)で食品を放置。
★冷凍庫に放置した食品を実際に食べてみる。
以下に、実験結果を報告していきます。
おにぎり
日本人の主食である米を、持ち運びしやすいような形に形成した行動食です。
冷凍
冷凍庫で凍らせたおにぎり。カチカチに凍っています。
凍った影響で米の粘り気が無くなってしまい、海苔がぺらりと剥がれてしまっています。
実食
カチカチに凍りついたおにぎりを食べようと試みましたが…文字通り、歯が立ちませんでした。氷の塊に齧りついているような感触です。
辛うじて海苔だけは食べられました。パリパリして美味しかったです。
おにぎりが冬山で凍ってしまった場合は、食べられなくなってしまいす。『八甲田山死の彷徨』での描写は本当でした。
※この後、おにぎりはおじやにして美味しくいただきました。
ジャムパン
パンの中に甘美ないちごジャムを封入した一品。
冷凍
パッケージの袋の内側と、パンの表面に霜が着いた状態となりました。触った感覚で明らかに固くなっています。
実食
硬くはなっていますが、食べられないほどではないです。ただし、パンがパサパサになってしまっており非常にマズい。口内の水分も持っていかれそうになる感じ。ジャムの部分はシャーベット状になっていて美味しかったです。
低温の環境下に長時間さらされるとパンの部分はパサパサになり、味は落ちますが食べられないことはないというのが分かりました。
バナナ
あの人気漫画『岳』の主人公・島崎三歩も愛する果実。
冷凍
変色して茶色っぽくなっています。触った感じでカチカチ。もっと大きければ鈍器になりそうな硬さです。
実食
無理でした。まず、凍りついたバナナの皮が硬くて剥けません、上の写真はあれこれ頑張って皮を剥こうとした結果。手を使っての皮剥きではこれが限界でした。
皮ごと食いちぎって、口の中で身と皮を分離しようとも試みたのですが、カチカチに凍ったバナナの皮は、食い破ることも出来ませんでした。
ナイフなどを使えば皮や果実の部分をカットすることは可能です。
※この後、バナナは包丁でカットしてヨーグルトに入れ、美味しく頂きました。
カロリーメイト
軽量で高カロリー。登山でのエネルギー補給に人気の食品です。
冷凍
冷凍庫で長時間放置したカロリーメイトの外観。常温の場合と比べ、外見上の変化は全くありません。
実食
常温時と全く変わらない食感です。水分を含んでいないので、温度低下による影響を受けないようです。
柿ピー(柿の種&ピーナッツ)
行動食に、おやつに、おつまみに、応用範囲は広い。
冷凍
外見上の変化はありません。
実食
低温による変化をまったく受けていません。柿の種も、ピーナッツも、常温で保存していたときと同じ感覚で食べられました。
ピーナッツが低温による影響を受けていなかったので、他のナッツ類(ミックスナッツとか)でも、低温下で安定して食べられそうな印象を受けました。
スニッカーズ
チョコとピーナッツとキャラメルをMixした高カロリーバー。
冷凍
外見上の変化はありません。
実食
チョコレートの中にキャラメルとナッツが封入されているのですが、キャラメルが低温でカチカチに硬化しています。食べられなくもないのですが、本気で噛まないとキャラメル部分が割れないので、歯が折れるんじゃないかと思うほど。
口の中に入れた後は、口腔内の温度でゆっくりキャラメルが軟化してくれるので、普通に食べられました。
キットカットバー
あのキットカットを棒状にしてボリュームUP。そして食べやすく。
冷凍
外見上の変化はなし。
実食
上に紹介したスニッカーズとは異なり、キットカットバーはチョコレートとクッキーで構成されているので、低温下でも硬化せず、問題なく食べることができます。
果汁グミ
グミ界におけるスタンダード。いろいろなグミを食してきましたが、結局はここに行き着きました。
冷凍
外見上の大きな変化はなし。触った感じ弾力は大きく失われている感じ。グミ自体もひんやりしています。
実食
口の中に入れて一噛みしてみると、明らかに常温時と比べて硬くなっています。しかし、噛み切れないほどの硬さではありません。また、口の中にいれていると、口腔内の温度でグミは少しずつ柔らかくなってきます。
inゼリー(ゼリー飲料)
疲れていてもつるっと食べられるゼリー飲料は、ハード行程の登山の味方。
冷凍
冷凍庫に長時間放置したinゼリーは、完全にカチコチ状態です。
実食
…無理でした。硬く凍ってしまっており、いくら飲み口からチューチュー吸ったところで、一滴も出てきません。
解凍したら問題なく食べられましたが、厳冬期の山中で完全に凍ってしまった場合は、湯を沸かして突っ込んだりしない限りは溶けなさそうです。
よもぎ大福(草もち)
ディーアイが個人的に好む行動食。甘さがくどすぎず、軽量コンパクトで、なかなかエネルギー量も高くてお気に入りです。
冷凍
凍らせたよもぎ大福。外観上の大きな変化はありません。
実食
凍らせても大福部分はもちもちしており、アンコは低温によって程よい歯ごたえが出てきました。食感だけを言えば、ロッテのアイス『雪見だいふく』とよく似ています。
常温時と比べて、食感の変化はありましたが不快な感じはなく、個人的には十分美味しく食べられました。
練乳(コンデンスミルク)
イチゴかけるだけでなく、山ではそのままチューチュー吸ってカロリー補給も可。
冷凍
冷凍後も、大きな変化はなさそうです。パッケージを押してみましたがカチカチに固まっているような感じもありませんでした。
実食
平温時と比べると、多少硬くはなっているような感じがしますが、冷凍室に放置した後も凍結することはありませんでした。食感も変化なし。低温下で放置しても、コンデンスミルクは問題なく食べられそうです。
ちなみに、サラサラの新雪と混ぜると美味しいアイスになります。
ようかん
ようかんは軽量コンパクトで日持ちする。和菓子は意外にも、行動食としてなかなか優秀なような気がします。
冷凍
冷凍した影響で、常温時と比べると硬くなっています。ひんやりと表面が冷たくなっているのも感じます。
実食
平常時と比べると明らかに硬くはなっていますが、普通に噛み切れるレベル。冷凍庫に長時間放置していても、ようかんの食感はそれほど変化しませんでした。超低温下でも、ようかんは問題なく、美味しく食べられます。
ソイジョイ
大豆やフルーツを含んで、なんとなく健康に良さそうな食品。行動食にもGOODです。
冷凍
外見上の著明な変化はありません。
実食
常温時と比べると明らかに硬くはなっていますが、問題なく食べられるレベルです。冬山に持っていっても、凍って食べられなくなる心配はなさそう。
プッチンプリン
プリン界のスタンダード。山で食べるプリンは何故かうまい。
冷凍
プリン独特のプルプルした感じは完全に消え失せ、カチコチに凍っています。
実食
コンビニで買った時に着けてくれた透明のプラスチックスプーンは、凍ったプリンに対してはあまりにも無力。無理やり食べようとしたらプラ製スプーンは割れてしまいました。
金属製のスプーンで食べました。始めはカチカチのプリンでしたが、室温で少しずつ柔らかくなってきたので、シャーベット状になり美味しく食べられました。
しかし、気温-10℃ぐらいの室外だと自動解凍は期待できないので、食べるのには結構労力が必要そう。体も冷えそうです。
チーカマ(魚肉ソーセージ)
魚肉ソーセージ類は、ある程度保存が効くし、行動食以外に酒のつまみとしても使えるので、山ではなかなか優秀な食品です。チーかまが好き。
冷凍
凍らせたチーかまは、常温時と比べると著しく弾力を失っています。包装を剥ぐのに一苦労。
実食
冷凍した影響で固くはなっていますが、食べられなくもないです。シャリッとした、半分凍ったような食感が、チーかまとの相性が非常に悪く、美味しさは確実に低下しています。
一応低温下で長時間放置しても食えます。しかし、常温で食ったほうが絶対うまい。
サラダチキン
低脂肪、高蛋白でダイエッターやトレーニーに人気の鶏胸肉。山でもひたすら筋肉のことを考えている人とかは、食べているのかもしれません。
冷凍
凍らせた鶏胸肉。カチカチです。包丁の刃も通しません。
実食
…無理でした。噛み切ってやろうと全力でかぶりつきましたが、全く歯が立ちませんでした。少しの間噛み付いてみましたが、氷を口に含んでいるような感覚の中、鶏胸肉の風味が口の中に広がってきて、オエッとなって中止。
厳冬期登山の行動食に鶏胸肉を持っていくのはおすすめできません。保温ができている、又は火器類で調理前提ならその限りではありません。
※この後、この鶏胸肉は解凍して調理し、美味しくいただきました。
おわりに
厳冬期の山岳環境を想定して、低温にさらされた食料(行動食)がどのように変化するのか実験を行いました。
結果として、水分を含む食品はやはり凍ってしまうことがわかり、凍ると食べられなくなってしまうものや、硬くなってもなんとか食べられるものがあることがわかりました。
水分を含んでいない食品は低温による変化を全く受けていなかったので、泊まりで山に入る場合など、低温にさらされる時間が長くなる食品は、凍らないものを選択していきたいです。
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