場所:岐阜県、北アルプス、錫杖岳
登山日:2020年10月27日
登山タイプ:無雪期アルパインクライミング、日帰り
メンバー:ディーアイ、Shu
錫杖岳前衛フェース・Little Wing
概要
錫杖岳の烏帽子岩には前衛フェースと呼ばれる標高差250m-300mほどの岩壁があります。
その前衛フェースで最初に登られたルートが『1ルンゼ』。
今回登った『Little Wing』は1ルンゼルートからの派生ルートです。全9p(ピッチ)のうち、出だしから6pは1ルンゼと共通で、後半の3pがLittle Wingオリジナルピッチとなります。
1ルンゼの後半が岩の弱点を突いた凹角を登っていくのに対し、Little Wingは後半部をより傾斜の強いクラックに求めた、より攻撃的なラインとして設定されています。
【Little Wing】
ピッチ数:9p
登高距離:200m
最高ピッチグレード:5.10c
参考書籍:白山書房 日本の岩場(下)
ネットで検索すると、Little Wingは下部から1ルンゼルートとは多少違ったルート取りをする(1ルンゼダイレクトというルートを登る)ようような記事も見受けられたのですが、上部の5.10cのピッチ含むオリジナルピッチを登ることを主な目的としているので、今回は日本の岩場(下巻)のルート図通りに登ることとしました。
アプローチ
新穂高温泉、中尾高原口にある無料駐車場を利用。
時期的に日が短くなってきているし、駐車場から岩場へのアプローチに時間もかかるので朝の5時に集合としました。
今日のパートナーはShu氏。マルチでは以前、城山のバトルランナーを一緒に登ったこともあります。最近はフリーの5.11台もどんどん落とし、急成長中のクライマーです。
駐車場で合流した後、持っていく装備をお互い確認し、パッキングしてから岩場へのアプローチ開始。
周囲はまだくらいですが、半月ほど前に錫杖に行っていたので迷わずガンガン歩いていける。
一般登山道を離れ醜いマーキングに沿って錫杖沢へと降りていきます。
数日前に北アルプスでは積雪があったようですが、朝日に照らされる錫杖の前衛フェースに雪の気配はなく、コンディションは良好そう。アプローチの日陰に一部残雪はありましたが、大した量ではなし。
出発時には氷点下に近いような気温でしたが、太陽が当たってくると別世界のように暖かくなりました。この時期は特に、日向と日陰の気温差が本当に大きく感じます。
1ルンゼへの取り付きは初見では少々分かりにくいですが、以前一度来たことがあるので問題なく到着。
途中、隣のルート(深夜特急?)にフィックスロープが張ってあるのが見えました。
1ルンゼ取り付き付近は快適な下地となっているので、ここで準備開始。1ルンゼルートの前半は浮石・落石が多いので、先行者/下降者がいる場合は注意が必要。
クライミング
1p-2p目 V+ 50m
早る気持ちを抑えられず、ディーアイがリードでクライミング開始。水流の左から。最初は階段状ですが、ガバガバというわけではなく、しばらく最初のプロテクションが取れないので慎重に。
トポだと1p~2pは別れて書いてありますが、50mロープをいっぱいに伸ばしてリンク。
前回1ルンゼを登った時も感じたのですが、トポ上の1p目を区切る場所がよくわからない…。
1p-2pは繋げて登ると長いし、意外と簡単ではないので初っ端から結構疲れます。
3p目 IV 45m
Shu氏リード。最初はちょっとプロテクションの取りにくい凹角から。出だしだけちょっとだけ悪いが、後は難しい箇所はない。
ルンゼに入ってからがちょっと分かりにくく、終了点までルートがいろいろ取れそう。実際Shu氏も散々迷った様子。最終的に、自分が以前1ルンゼを登った時とは違うところからテラスに登り上げていました。
トポ上の3p目(実質の2p目)終了点にも2本のハンガーボルトが打たれています。
4p-5p目 IV 50m
ディーアイがリード。階段状からカンテを登る。簡単ですが、プロテクションがなかなか取れなかったので慎重に。
こちらもトポでは4p目20mと5p目30と書かれていましたが、中間で切れるような場所もよく分からずロープを50mいっぱいまで伸ばしてリンク。
終了点が登りながらだとちょっと見つけにくい場所にあります。
トポ上の5p目で休憩していたら、突然「ディーアイさん!」と名前を呼ばれて驚きました。見ると隣のルートを、一緒にクライミングしたこともある山仲間が登っていました。
La Campanella 5.13b Rにトライ中とのこと。次元が違いすぎる…。
6p目 IV 25m
Shu氏リード。ステンレスのハンガーボルトが何本か打ってあるので、結構難しいのかと警戒しがちな外観ですが、登ってみるとそれほどでもないピッチ。
最初のトラバースを慎重にこなし、ボルトの打ってあるカンテへ。凹角まで登ってしまえば後は優しいクライミングを経て終了点へ。
トラバース
6pまでが1ルンゼルートと共通で、それからはLittle Wingオリジナルピッチを登ります。1ルンゼは開けたスラブから凹角を、Little Wingは白壁の側壁にある垂直な部分に刻まれたクラックを辿っていきます。
6p終了点からLittle Wingオリジナルピッチの取り付きまでは5-10mほど横方向にトラバースします。
勝手がわからず、6p目終了点→Little Wing取り付きまでピッチを切ってトラバースしたのですが、ここは6p目から繋げるか、6p目終了点から次の三角テラスまで一気に登ってしまうかした方が良いかもしれません。
7p目 5.9 20m
ここからLittle Wingのオリジナルピッチが始まっていきます。
1ルンゼルートは日当たりよくポカポカ快適でしたが、白壁の側面に入ると途端に日陰となり寒くなる。
Shu君リード。出だしがプロテクション取りづらくちょっと悪そう。
終了点の三角テラスへとトラバースするところでしばらく格闘中…。足場が濡れていて悪いらしい。
Shu君が力尽きたため、リードを交代。日陰なので岩が冷たい。日当たりが悪いせいで、いままで快適だった岩のコンディションも微妙で、数日前にあった降雪の影響か、壁は所々染み出しで濡れていました。
良いホールドが見えたので、想定よりも低めの位置からトラバース開始。ホールドはガバだけど最終プロテクションからどんどん離れていくのでちょっと怖い。
8p目 5.10c 30m
このピッチもディーアイがリード。三角テラスは日当たりが悪い上に風が抜けて寒いので、長居は無用と登り始める。
最初はムーブ的にはここが核心のボルト3本のフェース。濡れているホールドもあり、ちょっと悪い中何とかこなし、一息ついてから右上するクラックに入る。
クラックのパートは楽勝かと思ったら、手も足も使いたいホールドがことごとく染み出しで濡れておりコンディションが悪い。
技術的には行けるはずなのに、自分の弱い心に負けてテンション。カムをつかんで決め直し、悪いところを抜けてしまえば、後はランナウトに耐えながら簡単なクライミングを経て太い木にスリングが巻かれた終了点へ。
Little Wingは日当たりが悪くて岩が冷たい上に核心部が濡れており、場所によっては風が抜けるので寒い。完全に登る適期ではなかったという印象。
一応トポ上では5.6のピッチがひとつ残っていますが、次のピッチがちょっと快適ではなさそうなのと、目的であったLittle Wingの5.9、5.10cのピッチを登ることができたので、気持ち的には十分満足。
Shu君と相談した結果、8p目を登り終えた時点で登攀を切り上げ、下降を開始することにしました。
下降
前衛フェースのルートは、懸垂下降で取り付きまで戻ります。
8p目終了点から、1ルンゼルートとの分岐点である6p目終了点(スラブの取り付き)まで一気に降ります。これができるということは、7p-8pは三角テラスで区切らずリンクして登ってしまってもいいかも。
6p終了点→5p終了点まで。距離約25mとロープが余って勿体ないが、途中で切れるところがないので仕方ない。
5p目終了点は日の当たり良好な居心地のいいテラスだったため、ここでセルフビレイを取りながら遅めの昼食をまったりと。日当たりのいい場所は天国。
その後5p目終了点→3p目終了点まで50m近くを一気に下降。
3p目終了点から2p目終了までの下降に関しては、登ってきたルートをそのまま下りてしまうとクラックにロープの結び目がスタックしてしまうので、ルンゼを避け、露出感のある方へテラスを少し歩いてから下降。
無事に1ルンゼの取り付きまで戻ってきて一安心。1ルンゼルートの前半は所々に落ちそうな石ころが見受けられ、地形上ルンゼ付近は落石の通り道となっています。下降時には特に落石が誘発されやすいので、混雑する時期は落石に細心の注意が必要だと思いました。
新穂高温泉に無事下山。Shu君、楽しい山行をありがとうございました!
★今回の相方・Shu氏が書いたLittle Wingの記録は以下
装備
共同装備
50mのダブルロープ
キャメロット#0.3~#3を2セット、#4をひとつ。
ナッツ1セット
アルパインヌンチャク6本
クイックドロー3本
120cmスリング×2-3本
カラビナ各種
捨て縄数本
個人装備
ヘルメット
ハーネス
ビレイデバイス
ビレイグローブ
チョーク&チョークバッグ
クライミングシューズ
アプローチシューズ
22L-25Lぐらいのザック
レインウェア
保温着
テーピングテープ
水分(1L)と行動食
スマホ
カメラ
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