母ちゃんと前穂北尾根に登ってきたよ! 【3-3】

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山のブログ『のぼるひと』の作者・ディーアイの母ちゃんは元クライマー。そんな母ちゃんがずっと憧れていた穂高岳の岩稜クラシックルート、前穂高岳北尾根。頼もしい助っ人も交えて一緒に登ってくることになりました。

※前回の記事※

3回シリーズで送る前穂高岳の北尾根登攀記録、今回で最後です。

 

場所:岐阜県、北アルプス、穂高岳(前穂高岳北尾根)

登山日:2018年9月2日~9月3日

登山タイプ:無雪期アルパインクライミング、山小屋利用1泊2日

メンバー:ディーアイ、母ちゃん、マッシー(ガイド)

 

母ちゃんと前穂北尾根に登ってきたよ! 【完結編】

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【写真】前穂高岳北尾根全景と各ピークの名称

 

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今回の記事で歩いたルートの概要

 

早朝の出発

アルパインルート(一般登山道ではないクライミングルート)には通常のコースタイム表記はありません(一応参考タイムというのはあって、ある程度の目安にはなりますが…)。パーティの実力や、ルートの混雑状況などによって、かかる時間は大きく変ってきます。

母ちゃんをフォローしながらの登攀となるので、自分が仲間と2人で登る時よりは時間がかかりそう。そのため、できる限り時間に追われないよう、出発は周囲が明るくなり始めた5時頃とし、4時には起床することに決めました。

 

2018年9月3日 涸沢ヒュッテ

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寝る前には雨が降っていましたが、外に出てみると空に雲は少なく、ほっと一安心。台風が接近しているとは思えないような良い天気でした。

準備を整えて前穂北尾根の登攀に向かいます。

 

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例年に比べると涸沢の大雪渓の雪はかなり少ない。雪渓の左側のガレ場を詰めて北尾根を目指しました。

 

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涸沢ヒュッテをバックに、歩きにくいガレガレの地面で転倒しないように気をつけながら、前穂高岳北尾根の登攀開始地点である『5.6のコル』へ向かいます。

 

5.6のコルへ【アプローチ】

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ルート沿いにはケルン(目印になるように人が組み上げた石)があるので、目印にしながら歩いていきます。足元は浮石たくさんで歩きにくいですが、ケルンの積んである場所に沿っていくと比較的歩きやすいです。

 

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ガレガレの浮石だらけの斜面。一般登山道ではないので整備されていない。

 

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北尾根ルートは昔から大勢のクライマーたちに歩かれているので、『クライマー道』みたいなものが出来上がっています。

 

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過去に誰かが記した、5.6のコルへの道標。

 

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5.6のコルは結構近くに見えているような気がするのに、なかなか着きそうで着かない登り。

 

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穂高岳主稜線にはガス(雲)がかかっていました。雲の合間から朝日が差し込んできました。前穂高の北尾根のピーク群が影となり、涸沢カール内に現れていました。

 

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5.6のコルまで詰め上げると、反対側(奥又白側)の視界がぱっと開けます。

眼下に見える川は梓川。昨日は梓川沿いに明神~徳沢~横尾と歩いてきました。

コルに到着後、ひと息入れてから、登攀用の装備(ハーネス・クライミングギア)を装着します。本格的なクライミング要素が入ってくるのは3峰からですが、必要時母ちゃんの安全が確保できるよう、ロープやギア類をすぐに取り出せるようにして今後の行程に挑みました。

 

5峰【岩稜のはじまり】

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5.6のコルから見上げる前穂高岳北尾根5峰。

 

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5峰に取り付くと、所々手を使う岩場の登りの始まりです。写真右上、5.6のコルに後続のガイドパーティの姿が。

 

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北尾根は多くのクライマーに歩かれており、道のようなものができていることもありますが、基本的に整備はされていません。浮石が多く、クサリやハシゴなどのサポートは当然ありません。

 

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5峰への登りの途中。後ろを振り返ると北尾根6峰。奥には常念岳が見えました。

 

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浮石ゴロゴロ。一抱えもある岩でも、引いたらグラっと動くことがあるので、常に油断禁物です。

 

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朝は天気が良かったですが、徐々にガスがかかるようになってきました。写真左に見える赤い屋根は涸沢小屋です。

 

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5峰のピークには立たず、明瞭な巻道を使って次の4峰を目指します。昨日の雨と、ガス(霧)の影響で岩が湿っており、よく滑ります。北尾根の岩は濡れると特に滑りやすい。

 

4峰【不安定な岩場】

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前穂北尾根4峰。個人的にはここが一番緊張したところ。

本格的なクライミングが始まるのは3峰ですが、4峰も傾斜がそれなりに強く、不安定な岩が積み重なったような地形です。ルートファインディングがなかなか難しく、道を間違えると一気に危険度が増してしまいます。実際に4峰での事故も多発しているとのこと。

落石を起こさないことと、危険なルートに入り込まないよう、注意して進みました。

 

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ディーアイが先行してルートを探ります。後続の母ちゃんには、「このルートでオッケー!」だとか、「ここは回り込んだほうが安全(楽)だね~」とか、道の情報を伝えながら進んでもらいます。最後尾からはマッシーガイドが、母ちゃんが問題なく登れているか、目を光らせています。

 

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4峰に残された古い確保支点。

パーティの実力によっては、4峰の登りでもロープを出したほうが良いかもしれません。

 

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北尾根4峰は、取り付きから基本的に直登。写真の大岩に出くわしたところで奥又白側にトラバース(ただし行き過ぎ注意)し、それからまた稜線上に戻って進みました。

 

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ルートファインディングに少々迷うところもありましたが、順調に高度を上げていきます。

 

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4峰頂上付近。大岩が積み重なったような地形。

ガスが濃くなり、進行方向にやや迷う場面もありました。視界が悪い時には、間違った尾根に入り込まないように注意です。

 

3峰【クライミング】

前穂北尾根3峰の登りは、それまでよりもぐっと傾斜が増し、登りの何度が上がります。3峰の登りは、安全確保のためにロープを使用します。

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3峰の取り付き(3.4のコル)に到着してみてビックリ。予想を大幅に上回る数の先行パーティの姿がありました。2人組パーティ、山岳会と思しき6名、自分たちを追い抜いたガイドパーティ2名。先行者の数は計10人。

涸沢ヒュッテの空き具合から、本日北尾根を目指す登山者は少ないと思っていたのに…。これは予想外の事態です。

基本的に岩場のルートは、使用できる支点が限られていたり、落石などの危険もあるため、先行者が登りきってからでないと、こちらは登り始めることができません。なので、先行パーティ計10人全員が登っていくまで、3.4のコルで待機というハメになりました。

ここで40分ほど待ち時間発生。ガスが濃く、コルは風が吹き抜けていたので、体温を奪われないように保温着を着用しました。

 

先行パーティの姿が消えたあと、いよいよ前穂北尾根3峰の登りが始まります。

信頼するマッシーガイドにビレイ(墜落した時に止めてもらうように確保)をお願いしているお陰で、不安はありません。

濡れて滑りやすい岩だったり、崩れやすい不安定な地形だったりはしますが、ディーアイは今までこれよりも難しい岩場を何度も登っていたので、グイグイと高度を上げていきました。

1P目は難しい直登ルート(IV)でなく、左巻きルート(III)から。50mロープいっぱい伸ばしたところでピッチを切りました。

 

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1P目を登りきったあたりで突然ガスが晴れ、一気に周囲が見渡せるようになりました。

 

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1P目終了点から、2P目に挑む先行パーティ。ここまでくると高度感半端ないです。

 

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ディーアイの張ったロープに沿って、母ちゃんが登ってきます。ガンバレ!

 

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今までのガスが嘘のように突然晴れ、広がる絶景にマッシーガイドも唖然。ちなみに後ろに見える岩のピークは北尾根4峰。

 

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2P目はルンゼ~クラックの走ったディエードル(凹角)。約30m(III)

 

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天気はガスがかかったり、晴れたりを繰り返していました。

 

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母ちゃんは「クラック登りなんて久しぶり」と、元クライマーっぽいことを言いながら登ってきます。

 

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クイックドローとカム類(万が一落ちた時に止めてくれる中間支点)を、マッシーガイドが最後尾で回収しながら登ってきます。

 

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ガスの切れ目から、奥穂高岳やジャンダムルムと呼ばれる岩峰ピークが見えました(写真左上)。

 

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2P目終了点からは、大した岩場がなかったので一時ロープを解いて20-30mほど進みます。そして、上の写真のところからロープを再び出し、3P目スタートです。

 

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3P目を真下から。1箇所だけ、乗り越すのに1ムーブやらしいとこがありました。25m(III)

 

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前穂北尾根3峰のピークは、あまりピークっぽくない平坦な感じ。

 

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残置の錆びた終了点(リングボルト)の強度を個人的に全く信用していないので、岩にスリング類を巻き付けて支点とし、後続を確保しました。

 

2峰~前穂高岳本峰へ

3峰ピークから、少し巻き気味に2峰ピークに登頂。この間は全くロープは使用しませんでした。

2峰ピークには残置スリングが大量にあり、本峰のコルへと10mほど懸垂下降します。(一応クライムダウンも可能ですが、複数人の場合は懸垂の方が早いと思います)

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2峰ピークから、ディーアイが先行して懸垂下降。母ちゃんがニ番手で降りてきます。マッシーガイドが、母ちゃんが下降するためのデバイス(下降器)がきちんとセットされているか確認。ディーアイが下で万一の場合に備えてすぐにロープを張れるよう、安全を確保した状態にしてから、母ちゃんに降りてきてもらいました。

 

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前穂高岳本峰への登り。ディーアイがロープを片付けている間、マッシーガイドに先導をお願いしました。

 

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前穂高岳頂上を前にして、雲の切れ間から光が。北尾根登攀を祝福してくれるよう。

 

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日本三大岩稜・クラシックルートである北尾根から、前穂高岳(3090m)登頂

母ちゃんが若い頃からずっと憧れていたルートを共に登りきりました。

 

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山頂標識で記念撮影。

太っててやかましいウチの母ですが、自分にとって大切な家族。

この山行で、今まで恩返しが少しでもできたら嬉しいです。

 

岳沢を経て上高地へ

前穂高岳山頂から、重太郎新道というルートを経て岳沢~上高地へと下山します。

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重太郎新道は一般登山道ですが、傾斜が強く事故も多発しているので、なかなか油断ならない道です。最後の最後に気が緩んで事故を起こさないよう、慎重に行きます。

 

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重太郎新道より。写真中央やや左あたりに岳沢、写真左上あたりに上高地があります。

 

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長くて斜度があり、所々クサリ・ハシゴもある下山ルート(重太郎新道)を経て、岳沢小屋着。ほっと一安心。

 

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岳沢からの下りの途中から眺める上高地。よく見ると河童橋も見えます。

 

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岳沢登山口(上高地)まで戻ってきました。これで登山道は終了。あとは遊歩道をいくらか歩けば、上高地。無事下山です。

 

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河童橋(上高地)から見上げる穂高岳は、いつもと同じように美しかった。

母ちゃん、山を教えてくれてありがとう。

 

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夕方、人がすっかり少なくなった上高地バスターミナル。

これにて、前穂高岳北尾根の山行は終了です。

 

 

謝辞

マッシーガイド

後方からのサポート、ビレイ、山小屋の手配など、ありがとうございました。後ろから母が問題なく歩けているか、常に注意してくれていたお陰で、安心して登りの方に集中できました。また、母が登る際のアッセンダーのセットや、懸垂下降のセッティングを見守ってくれたお陰で、無用なリスクを低減することができました。この山行が思い出深いものになったのは、常に安全に気を配っていたガイドの存在があったからこそです。

 

母へ

幼少時に山を教えてくれたことを感謝します。子どもの時に教えられたことのいくつかは、社会人になって趣味として登山をはじめた時、しっかりと体で覚えていました。

山で見た美しい景色や、自然の中で過ごす充実した時間、登頂の大きな達成感などは、自分の人生の中での大切な思い出です。自然への畏れや慎重さ、事前準備の大切さ、安全登山の考えを持たせてくれたからこそ、今まで無事故でやってこれました。

また、山を通しての出会いによって、(愉快な)仲間にも恵まれ、自分の人生はより充実したものになっていると感じています。

 

 

父ちゃんへの親孝行は、またそのうちに。

 

前穂北尾根シリーズ

www.dimountainphotos.com