【山行記録】 錫杖岳 前衛壁 1ルンゼ 【アルパインクライミング】

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「1ルンゼは良いルートだよ」

SAC所属・山の大先輩からそう聞いて、急に興味が湧いてきた『錫杖岳1ルンゼルート』。以前から錫杖に行きたがっていたパートナーと一緒に登ってきました。

 

場所:岐阜県、北アルプス、錫杖岳

登山日:2018年8月30日

登山タイプ:無雪期アルパインクライミング、日帰り

メンバー:ディーアイ、miyu

 

錫杖岳 前衛フェース 1ルンゼ登攀

 

錫杖岳の概要

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錫杖岳(しゃくじょうだけ)は、岐阜県にある飛騨山脈にある標高2,168m。 槍ヶ岳双六岳を結ぶ主稜線上の樅沢岳から南西方向に笠ヶ岳に続く稜線の延長上にある。

僧侶が持つ錫杖の頭の部分が山体に似ていることから名付けられた

一般向けの登山道はないが、東側のエボシ岩などは、ロッククライミングの対象となっている

wikipediaより

 

一般登山道がなく、標高2168mと、3000mクラスの山がひしめく北アルプスにおいては標高が低いため、一般的な登山者からの知名度はあまり高くない山だと思います。

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赤で囲った部分が錫杖岳。

写真右の明るいピークは、岐阜県最高峰にして日本百名山笠ヶ岳(2898m)です。

 

錫杖岳は一見すると地味な山のようですが、笠ヶ岳のクリヤ谷ルートから見上げると、その山体が抱える大岩壁は圧巻で、一度目にしたら強く印象に残る山です。

 

今回はその錫杖岳で、クライミングを行ってきました。

定義が曖昧な部分もありますが、山岳地帯で岩壁や岩稜などの(一般登山道ではない)ルートを経てピークを目指すタイプの山行を『アルパインクライミング』と言います。

錫杖岳のクライミングが、ロッククライミングなのかアルパインクライミングなのかは意見が別れるところではあると思いますが、自分の中では標高2000mクラスの山岳環境の中で行うクライミングなので、アルパインだと思っています。

 

1ルンゼルート 

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赤のラインで示してあるのが『1ルンゼルート』です。

※『ルンゼ』とは、日本語訳で『岩溝』と言い、水の侵食によって岩壁にできた溝状の地形のことを言います。ちなみに『ルンゼ』以外に、『ガリー』『クーロワール』も同意義で使われています。

1ルンゼは錫杖岳前衛壁で最初に登られた大クラシックルートで、初登は1931年(!)。現在とは比べ物にならないぐらい重く、性能の劣るギア類で、昔のクライマーたちがこの壁を登っていたという事実に驚きを禁じ得ません。

 

登山口へのアプローチ

ディーアイの住んでいる信州・諏訪地方からだと、車で行くと高速を利用しておよそ2時間ほどかかります。

高速道路の松本ICで降り、上高地方面へ。安房トンネル有料道路を通過し、平湯から新穂高温泉方面へと向かいます。

【駐車場】

新穂高温泉へと抜けるトンネルを出て、中尾橋を渡ったすぐ先、奥飛騨砂防資料館の手前、中尾高原への分岐点のところに無料駐車場があります。

 

錫杖岳へ

奥飛騨砂防資料館付近、中尾高原口にある無料駐車場に車を停め、歩き出します。

『笠ヶ岳クリヤ谷ルート』を経て、錫杖岳にアプローチします。

クリヤ谷ルートは、山と高原地図『槍ヶ岳・穂高岳』に載っています。

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今回も自分はオスプレーのザック『ミュータント28』使用。日帰りのアルパインにちょうどよい大きさと使い勝手です。

ロープは、複雑に屈曲するアルパインルートの性質と、帰りの懸垂下降とを考え、50m8.5mmのダブルを使用。

 

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槍見館となりの『笠ヶ岳クリヤ谷ルート登山口』から入山。

 

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しばらくはクリヤ谷ルートを歩きます。

岩にところどころコケが生えていて、滑りやすいので注意です(特に下山時)。

 

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クリヤ谷ルートは一箇所渡渉(沢を渡る)地点あり。

上手く行けば靴を濡らさずに通過できますが、失敗するとドボンです。

靴を脱いで歩いてしまうのも手。

 

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錫杖岳が朝日に照らされています。

天気予報は曇りのち雨(午後から降り出す予報)なので、あまり天気には期待していませんが…。

 

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一般登山道を離れ、錫杖沢を詰めていきます。

1ルンゼには3つほど行き方があるそうですが、道に迷って時間をロスするのが嫌だったので、前回登った『左方カンテルート』への道を辿って、岩の基部から1ルンゼを目指すことにしました。

 

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途中で沢を離れ、踏み跡(クライマー道)に導かれるまま高度を上げていきます。

 

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左方カンテルートの取り付きに到着。1パーティ登っているようでした。

 

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左方カンテルート取り付きから、岩の基部を1ルンゼ方面へと移動。踏み跡はおおよそ明瞭ですが、1箇所迷う可能性のある踏み跡っぽいのがあったので注意。

 

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1ルンゼの取り付き地点。快適。ただし、別パーティが登っている場合は上部からの落石が降ってきやすい場所でもあるので注意です。

 

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取り付きから見上げた1ルンゼルート。

 

1ルンゼ登攀

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取り付きで登る準備を整えます。

下りは懸垂下降で同取り付きまで降りてくるので、余計なものは置いて軽量化可能です。

 

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振り返ると奥飛騨に光芒が。

素晴らしいロケーションじゃありませんか。

 

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ディーアイが1P目からリード(先行してロープ引きながら登ります)。

ルンゼ(岩溝)とは言いますが、実際には登るのは溝状左の壁だったりします。

トポ(ルート図のこと)には1P目30mIV級とありましたが、感覚的には5.10a/bぐらいに感じる箇所あり。終了点の立派なハンガーボルトでセルフビレイ(自己確保)を取った時点で50mのロープがほぼ出切っていたので、トポで言う25mV+という2P目も継続して登っていたようです。更に、どこかで1~2Pは左に逃げず直登すると5.10bぐらいと見たと思うので、そのルートに入っていたかもしれません。

 

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後続のパートナー、miyuを上からビレイ(確保)の図。

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ルンゼと言う割には露出感のあるピッチです。

 

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トポで言う2P目終了点からの写真。ちょっと上がったところ(写真右下)にも終了点となるものがあります(そっちのがテラスが広い)が、錆々のリングボルトなので、手前側のステンレス製ハンガー×2個を選びました。

 

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トポで言う4P目の終了点?この辺のピッチの切り方がよく分かりませんが、とりあえず2P目から50mほど登った先の左側(下から見て)に上がると、広いテラスと、ステンレス製ハンガーがあり、そこでピッチを切りました。2P目終了点からほぼロープいっぱいです。

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トポで言う4P目?(実質2P目の終了点テラスからの景色)

 

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トポで言う5P目は、miyuがリード。30mIV級。

途中までおおよそ左のカンテ(岩の角)沿いに登っていく感じ。

 

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5P目(実際には3P目ですが、今後のピッチ数はトポ表記に準じることにします)終了点は灌木で支点を取っていました。下降時に気づきましたが、この近くにステンレス製ハンガーボルト×2があり、懸垂の支点はボルトの方を利用しました。

 

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核心と書いてある6P目。25mIV級。スラブ~凹角のフェース。中間支点(落ちた時に止まるとこ)に使えるステンレス製ハンガーボルトが途中2箇所打ってありました。

ステン製のボルトまで打ってあるから相当ムズいのかと思いきや、よく探すと結構使えるホールドがあったので、核心部と言うほどでは…といった印象です。

 

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6P目をフォローで登ってくるmiyu。

 

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錫杖の白壁がすぐ近くに。こんなところを登ってしまうクライマーもいるというのだから驚きます。

 

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6P目終了点から次の7P目(開けたスラブ~汚いルンゼ状45mIV)を見上げたところ。ここの終了点にもステン製ハンガー×2本打ってあります。

 

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7P目はmiyuリード。汚いルンゼ状のところでロープが屈曲したり擦れたりして、ロープの引きの重さに苦しんでいました。トポには45mとありましたが、そんなに長くなかった記憶。終了点にはステン製ハンガー×2がありました。

 

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8P目(最終ピッチ)のチムニー20mIV。

もともとそんなに良くない空模様でしたが、このへんで雨がポツポツと降ってきました。

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最終ピッチのチムニーを登るディーアイ。チムニーを登りきったあたりで雨は本降りに。

 

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8P目終了点。下降用のラペルリングがあります。後続のmiyuを引き上げたところで、錫杖岳1ルンゼルートは終了です。

 

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終了点からの横断バンドを利用していけば、錫杖岳前衛壁の岩壁ピークに立てるらしいですが、雨が降ってきてしまったので完登の余韻に浸る隙もなく、雨具を着て下山を開始します。

 

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1ルンゼ終了点から懸垂下降スタート。ピッチごとにステンレス製ハンガーが打ってあったので、その場所で区切りながら懸垂を何度も継続していきます。

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クライミングシューズが痛すぎて、裸足で懸垂してくる人。下降時に履き替える用のシューズを持ってくるべきか。せっかくバックパック背負ってるんだし。

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ほぼ登ってきたルート通りに懸垂下降。

途中で一度、ロープの結び目がクラックに挟まりスタック。登り返してロープを引き抜いて~とかやって、時間のロス。その際に、その場から懸垂するのにボロボロのハーケン1本以外に使えそうな支点がなかったので、ナッツ1個残置して、ナッツ支点懸垂。回収できた人にプレゼントしたいと思います。

 

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無事完登でき、1ルンゼ取り付きまで戻ってこれました。

このルートをはるか昔に見つけ出して初登した人は本当に凄い。

 

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ありがとう錫杖岳。また来ます。

 

この山行で使った装備

使用したトポ(ルート図)はこの本参照。今回登った錫杖の岩場の他に、穂高岳や剣岳の岩場ルートも掲載されています

 

ディーアイの愛用品。日帰りアルパインクライミングでは、かなり使いやすいザック(バックパック)です。

 

ロープはマムート製を信頼してい使っています。マムート製は安いのはイマイチで高いのは品質良いと、山の先輩より。

 

相方のmiyuが持ってきたUL(ウルトラライト)キャメロット。ディーアイが使っているノーマルキャメロットよりも明らかに軽く、荷物が多くて重くなりがちなアルパイン・マルチではマジで良いと思いました。正直、小さいキャメロットはULモデルでもそこまで軽くなっていないですが、これから大きめのカムを買う人は、絶対にULモデルをおすすめします。

 

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