はじめての錫杖岳。
『左方カンテ』というルートを登ってきました。
場所:岐阜県、北アルプス、錫杖岳
登山日:2018年7月11日
登山タイプ:無雪期アルパインクライミング、日帰り
メンバー:ディーアイ、showoneさん(SAC)
錫杖岳 前衛フェース 左方カンテ
錫杖岳の概要
錫杖岳(しゃくじょうだけ)は、岐阜県にある飛騨山脈にある標高2,168mの山。 槍ヶ岳と双六岳を結ぶ主稜線上の樅沢岳から南西方向に笠ヶ岳に続く稜線の延長上にある。
僧侶が持つ錫杖の頭の部分が山体に似ていることから名付けられた。
一般登山道がなく、標高2168mと、3000mクラスの山がひしめく北アルプスにおいては標高が低いため、一般的な登山者からの知名度はあまり高くない山だと思います。
赤で囲った部分が錫杖岳。
写真右の明るいピークは、岐阜県最高峰にして日本百名山の笠ヶ岳(2898m)です。
錫杖岳は一見すると地味な山のようですが、笠ヶ岳のクリヤ谷ルートから見上げると、その山体が抱える大岩壁は圧巻で、一度目にしたら強く印象に残る山です。
今回はその錫杖岳で、クライミングを行ってきました。
定義が曖昧な部分もありますが、山岳地帯で岩壁や岩稜などの(一般登山道ではない)ルートを経てピークを目指すタイプの山行を『アルパインクライミング』と言います。
錫杖岳のクライミングが、ロッククライミングなのかアルパインクライミングなのかは意見が別れるところではあると思いますが、自分の中では標高2000mクラスの山岳環境の中で行うクライミングなので、アルパインだと思っています。
登山口へのアプローチ
ディーアイの住んでいる信州・諏訪地方からだと、車で行くと高速を利用しておよそ2時間ほどかかります。
高速道路の松本ICで降り、上高地方面へ。安房トンネル有料道路を通過し、平湯から新穂高温泉方面へと向かいます。
【駐車場】
新穂高温泉へと抜けるトンネルを出て、中尾橋を渡ったすぐ先、奥飛騨砂防資料館の手前、中尾高原への分岐点のところに無料駐車場があります。
今回はオスプレーのバリアント28というザックを使用。
カムやとハーネス、クライミングシューズなど、日帰りの装備がなんとか入りました。
ロープとヘルメットを取り付けるための機構が便利。
錫杖岳へ向かう
奥飛騨砂防資料館付近、中尾高原口にある無料駐車場に車を停め、歩き出します。
『笠ヶ岳クリヤ谷ルート』を経て、錫杖岳にアプローチします。
クリヤ谷ルートは、山と高原地図『槍ヶ岳・穂高岳』に載っています。
ここ数日の大雨の影響か、蒲田川の水流はいつもより多い印象でした。
槍見館の脇にある登山口。
この笠ヶ岳クリヤ谷ルート入り口。
登山ポストあり。登山届の提出はネットもしくはこちらで。
しばらくは登山道を歩いてきます。
クリヤ谷ルートは渡渉(沢を渡る)箇所があります。
ここ数日間の大雨の影響で、沢の増水を懸念していましたが、問題なく渡れました。
クリヤ谷ルートは大雨で沢が増水すると、渡渉地点を通過できなくなるので注意です。
目指す錫杖岳の岩壁が見えてきました。
今まで見上げるだけだったあの大岩壁に挑めるようになったことに、ワクワクが止まりません。
クリヤ谷ルートから見上げる、錫杖岳前衛壁。
最初は左の錫杖沢から、その後はクライマーたちが繰り返し歩いたことで作られたクライマー道を通って、錫杖岳の岩壁にアプローチします。
最初は沢の左岸(下から見て右側)を通っていきます。
クライマー道は一般登山道と違って整備してくれる人がいないので、ご覧のように笹で覆われてくる箇所もあります。
前日の雨で笹や葉っぱが濡れていたので、ズボン、アプローチシューズ、靴下までぐっしょり濡れました。
アプローチシューズの中はクライミング用のソックスを履いています。濡れた靴下のままクライミングシューズを履くとなると、下山時には猛烈な臭いを放ちそうですね。考えただけでも恐ろしいです。
当初は『左方カンテ』ではなく、『注文の多い料理店』というルートを登るつもりでした。
しかし、いざ取り付きまで来てみると、岩がかなり濡れています。
『注文の多い料理店』の方は岩の陰になっており、この日は曇りやガスがちの天気予報だったため、岩壁が乾くかどうかは微妙なところ。
同行者のベテランクライマー、showoneさんの提案で、日当たりが良くて比較的岩が乾いていそうな『左方カンテ』に急遽ルート変更することにしました。
『注文の多い料理店』の取り付きから沢を少し下って、『左方カンテ』ルートへと向かいました。
左方カンテ登攀
【錫杖岳 前衛壁 左方カンテルート】
240m 9P V+
ルート情報は下記の本を参考にしました。
1P目 40m 写真左側から。
ディーアイがリード(先行)して登りました。
トポ(ルート図)にはルンゼIII級とグレーディングしてありましたが、気づかず左のリッジ(尾根)を直上。III級というグレードにしては渋いな~と感じていましたが、トポだとルンゼなのね。
リッジには残置ピトンあり。カムと併用。体感としてはIV+ぐらいか。
なんか残置スリングがいっぱい巻いてある木を支点とし、フォローのshowoneさんをビレイ(落ちても大丈夫なように確保)。
ちなみに、もう10mほど進めば2本のハンガーボルト支点がありました。
2P目 40m IV
showoneさんリード。
ルンゼ(岩溝)状を登ります。上部は垂直近いフェース(壁)。
すンごいスケールの岩壁。
濡れていて、ところどころ水が滴っていますが…
3P目 30m V
ディーアイがリード。第一核心のピッチ。
スラブから、薄被りのゆるい凹角状を登る一手が少し怖い。
このピッチは岩が乾いていて他ピッチと比べると条件が良かったです。
フリークライミングのムーブだけを考えると簡単なのですが…。カムで作る支点(落ちたら止まるとこ)の距離が、スポートクライミングの岩場と比べると結構離れています。フォールの際には長く落ちて降られそうだったりと、落ちたらのことを考えると恐ろしいので、技術的難易度が高いだけのジム壁を登るのよりも強いプレッシャーを感じての登攀となりました。
3P目をフォローで登ってくるshowoneさんを上からビレイの図。
4P目 20m II
ほぼ歩き。
5P目 30m IV+
showoneさんリード。
乾いていればどってことはないチムニーですが、濡れているせいでツルツル滑りました。
水の流れが伝っている岩に挟まれてのクライミングなので、全身が濡れました。
何度もこのルートを登っているshowoneさんいわく「こんなに濡れているのは初めてだ」そうです。
6P目 40m IV+
ディーアイがリード。
左のフェースを登ります。下部はカムで支点を取れそうなクラックがなく、頭のもげた古いボルトがあるのみ。(よく探せば支点取れそうなとこはあったらしいですが)
最初の6-7mほどは、落ちたら確実に怪我しそうなところを中間支点なしに登る。
技術的には大したことはないですが、ランナウトのプレッシャーと、岩が濡れていて滑ることから結構怖かったです。
6P目を登ってくるshowoneさんを上からビレイ中。ビビリなので、右に左に支点を取ってしまい、回収にご迷惑をおかけしました。
ガスったり、ガスが取れたりの天気でした。
ガスが取れても、曇り空だったので濡れたところは濡れたまんまです。
7P目取り付き。
7P目 40m V+
ディーアイがリードさせてもらいました。
ちょっとハングした壁にあるチョックストーンを乗り越すところから始まる、このルート最大の核心部。
7P目終了点からフォローで登ってくるshowoneさんをビレイ中。
「日本離れした~」というのは日本にある絶景を表す言葉の一つとして時々使われます。一方で、この緑とガスが入り混じった光景は、まさに日本っぽい感じ。こういう風景も悪くないですね。
この先2Pほど登ると、前衛壁の頂上に到達できるらしいです。
…が、この濡れたスラブを見ていると何となく登攀意欲が湧いてきません。
showoneさんいわく「この先のピッチはたいてい登られず、ほとんどのパーティはここで終了して降りていくよ」とのこと。
支点取れるとこが離れていたり、ブッシュがあったりと、あまり快適ではないらしい。それに加えて、今日は岩が濡れているので条件はよくありません。
というわけで、7Pを登りきった時点で『左方カンテルート』終了としました。
下りは『左方カンテルート』を懸垂下降で降りていきます。
左方カンテは右に左に折れ曲がっていたり、灌木やチョックストーンなどがあるため、途中2回ロープがスタックして回収が大変でした。
本来なら下降は『注文の多い料理店』ルートがある、北沢フランケ側が割とまっすぐ降りられるそうです。
今回は左方カンテ取り付きにアプローチシューズを置いてきてしまったので、仕方なく同ルートの下降となりました。
無事にルート取り付き点まで降りてこられてホッとひと息。
濡れたり泥がついているクラックに手を突っ込んだりしたので、テーピングがえらい汚くなってしまいました。
下山は、朝に登ってきた道を引き返します。クリヤ谷渡渉の図。
無事に登山口に到着。
6:00ごろに駐車場を出発して、駐車場に戻ったのは16:00ごろとなりました。
ちなみに下山後の靴下は激臭でした。
この山行で使った装備
オスプレーのアルパインザック、ミュータント28は日帰りのクライミングに便利でした。ロープ、メットの固定機構あり。背負い心地も良好で、クライミングの際にも邪魔になることはありませんでした。
アルパインクライミングということで、天気の変化(雨など)に対応できるよう、雨具などを持っていく必要があります。ブラックダイヤモンドのカッパ(レインウェア)は、細身でストレッチも効いていて、動きを妨げません。軽量コンパクトなのも嬉しいです。
アークテリクスのアプローチシューズ。ほぼデザイン買いしましたが、しっかりグリップしてくれて満足です。アッパーが薄いのでザックの中で比較的コンパクトになります。
今回使ったロープ。アルパインでは複雑に屈曲したルートが多いのでロープはダブルで。今回のルートでは懸垂下降でロープ2本が必須でした。岩は濡れていましたが、ドライ加工のおかげで水を弾いてくれました。
今回撮影で使ったカメラです。軽量で画質良し。悪条件でもノートラブル。
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