防寒テムレスの耐久性を試してみた【ギアテスト】

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冬山で遊ぶ登山者やクライマーの間で、話題の手袋・防寒テムレス

その辺のホームセンターで買えるという入手性の良さと、圧倒的な安さ、それでいて完全防水・防風な上に結構温かいときているので、冬山でのコスパ最高グローブと名高い一品です。

 

(一部の方々に)人気の防寒テムレスですが、その手袋を持って挑む相手は冬の山。命がけのフィールドです。

SNSやブログ記事などでで「いいよ!」と言われていたとしても、果たしてそれを無批判に全て信じてしまっていいのでしょうか?

防寒テムレスはお値段1500円そこらです。一流のアウトドアブランドが放つ手袋の約1/10のお値段。ケチりたい気持ちも分からんでもないですが、あなたの指には1500円以上の価値があるはず…!

防寒テムレス、温かいとか風通さないとかは良く聞くけど、過酷な山の環境でそんなに信頼しちゃっていいの?

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今回は、お値段安くて人気の防寒テムレスが、どれほど外的な力に耐えられるかテストしてみたいと思います。

ギアの限界を知ることで、その装備でどの程度のアクティビティに耐えられるかの目安になりますし、越えてはいけない一線を知ることが、危険回避―安全登山に繋がるわけです。

それでは、レッツテムレステスト!

 

冬山登山に使えるグローブ・防寒テムレス耐久テスト

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【画像】コスパ重視の登山者の強い味方、防寒テムレス

 

防寒テムレスとは

ご存じない方のために、防寒テムレスについてざっと解説させてもらいます。

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『防寒テムレス』とは、ショーワグローブ(SHOWA)から発売されているポリウレタン製の作業グローブ『テムレス』の寒冷地・冷所作業用の製品です。

www.showaglove.co.jp

『テムレス』は防水透湿性(外側からくる水分は完全シャットアウトしつつも、内側(手)から出る汗による湿気を逃がす性質)の素材でできており、水は通さないがムレにくいという特性があります。

アウトドア用レインウェアに使われている『ゴアテックス』とよく似た性質です。ただし、ゴアテックスが高価なのに比べると、テムレスは非常に安価。更に、ゴアテックス製品の取り扱いは、アウトドア専門店などに限られているのに対し、テムレスはホームセンターやワークマンなどで取り扱われているので、気軽に買うことができます。

アウトドアの専門ブランドが1万円以上で販売している冬山用のグローブと比べ、約1/10のコストで入手できるのに、高い防風性と防水性、保温性を備えた防寒テムレスは、一部の冬山登山者などから絶大な支持を集めています。

 

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手の平側にはブツブツがついており、グリップ感は良好。滑りません。

素手(インナーグローブなし)で装着する場合、ディーアイはLサイズを使用。

参考までに、自分は国内メーカーのメンズグローブはM~Lサイズ、海外メーカーのグローブはMサイズを使用することが多いです。

 

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内側には暖かな起毛したライナーが装着されています(固定式)。外側は完全防風で冷たい風をシャットアウト、内側のボアがポカポカと手を温めてくれます。

 

さて、防寒テムレスについての概要と紹介はここでおしまい。

以下より、ギアテストを始めていきます。過酷な冬山で使われることもある防寒テムレスが、実際のところどれほど耐久性を持っているのか、様々な角度から検証していきます。

 

対重量テスト

はじめに、防寒テムレスは重いものに潰されても大丈夫かテストしてみましょう。

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【画像】防寒テムレスをセット

 

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【GIF】防寒テムレスを車で轢いてみる

 

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【画像】車に轢かれた直後の防寒テムレス 

 

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重量約1200kgの自動車に轢かれた後も、防寒テムレスは型崩れしていません。穴が空といった類のダメージも確認できませんでした。

整地された場所(コンクリートの上など)の場合、重量物に押しつぶされても、防寒テムレスは破損しないということが分かりました。

もともと平面に近い形状、弾性のある材質によるものだと考えられます。

 

耐熱テスト

次に、防寒テムレスには耐熱性があるかどうかテストしてみたいと思います。

防寒テムレスの表面はゴムのような素材(実際はポリウレタン)が使用されていて、ぱっと見なんとなく熱に弱そうな気がします。

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ガスバーナー(SOTOウインドマスター)に火を着け、お湯を沸かします。

使用するコッヘルは、DUGのHEAT-Iという製品。底部のヒートファンが熱を吸収する構造のために、すぐにお湯が湧くので便利です。

 

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バーナーに点火してから程なくして、お湯が沸きました。アルミ製のコッヘルは、触れると火傷するほどに熱くなっています。

 

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防寒テムレスを装着し、恐る恐る熱したアルミ製のコッヘルに触れています。

 

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熱々に熱されたコッヘルに触っても大丈夫。防寒テムレスを介して、手には暖かさが伝わってくる程度です。

 

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最も熱くなるコッヘルの底面。防寒テムレスを着けた状態で手の上に乗せてみました。これ、素手であれば確実に火傷をします。

 

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防寒テムレスにダメージはみられません。手の平が黒く汚れていますが、これは以前使用した時に着いた汚れなので、今回の耐熱実験とは関係ありません。

 

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手にダメージはありませんでした。

 

以前、お湯を沸かした直後のコッヘルを寝袋に接触させてしまい、ナイロン製寝袋の表面に穴を開けてしまったというミスをやったことがあります。お湯を沸かした直後のコッヘルは、ナイロン繊維を溶かすほどの熱を持っています。

防寒テムレスは熱に弱いという印象を勝手に持っていましたが、お湯を沸かした直後のアルミ製コッヘルに触れても、ダメージを受けませんでした。温かい程度で、手の感覚としても、特に熱さは感じなかったです。

防寒テムレスは予想していたよりも耐熱性を持っているという結論。

ただし、今回の実験よりも温度の高い物体に触れた場合の安全性は保証されませんのでご注意を。

 

※メーカーの注意書きには、「熱いものに触れないでください」と書いてあります。メーカー非推奨の、このような行為をする場合は自己責任でお願いします。

 

 

貫通強度テスト

次に行うのは、防寒テムレスがどの程度の耐貫通性を持っているかのテストです。

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登場したのは、ディーアイが愛用しているピッケル。Black Diamond社のベノム アッズ(旧モデル)です。あまり研いでいないので、先端がだいぶ丸まってしまっているナマクラピッケル。

こちらが現在販売中のモデル。

 

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【画像】準備完了

 

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【GIF】防寒テムレスにピッケルの一撃を叩き込む

 

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ピッケルの先端が防寒テムレスを貫通しました。

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裏返したところ。先端が見事に防寒テムレスを貫いています。手袋に手を通した状態でこのようなピッケルの一撃を食らったらと思うとゾッとしてしまいますね。

 

テムレスのように薄いポリウレタン製のグローブと比べ、上に紹介したようなフルレザーの製のほうが、おそらく対貫通強度は強いと思われます。(実際に貫通テストをやったわけではいので、あくまで推測です)

どちらにしろ、実験のような一撃を食らったら、どんなグローブをしていても怪我は免れないでしょうが…。

とりあえず、今回の実験により、雪山で誤ってピッケルで刺してしまったり、アイゼンで踏んづけてしまった場合、防寒テムレスには穴が空いてしまうリスクがあるということがわかりました。

 

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【写真】雪山にてイグルー製作中の一コマ

前雪山でイグルー(雪ブロックを積み重ねて作る宿泊用シェルター)を制作した際、スノーソーの刃が防寒テムレスに接触してしまい、テムレスの表面が簡単に切れてしまうことがありました。

テムレスは確かに高い防水性・耐風性能がありますが、鋭利な刃物や突起物が接触した場合には、破損するリスクがあることを認識しておくことが大切です。

 

耐摩耗性テスト

最後に行う実験は、防寒テムレスの耐摩耗性を調べるためのものです。硬いヤスリ状の物体にテムレスを擦りつけてみました。

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ザラザラしたコンクリートに、防寒テムレスを装着した手を全力で1分間、擦りつけます

 

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【GIF】こんな感じにテムレスを摩擦する実験です

 

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【GIF動画】早送りダイジェスト

 

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開始から17.24秒後、防寒テムレスに穴が空いた(中指)のが確認できました。

 

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開始から21.65秒後、中指だけでなく人差し指の内側にも穴が空いているのが確認できます。

 

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開始から1分経った時点で摩擦試験終了です。(タイマーを止めるまで少々の時差がありました)。

力が込めやすく、強い摩擦力が加わった中指と人差し指の表皮・インナーに穴が空き、指が見える状態になっていました。

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防寒テムレスを、コンクリートに全力で擦り付けると約17秒で穴が空きました。これをTT(Temres Timeの略)とでも呼びましょうか。テムレスに穴が開くまでの時間です。

例)「B社のSグローブ、コンクリートに全力で擦ったら34秒で穴が空いた!」「じゃあ、2TTだね!」という具合に、今後他社製品で今回と同じ実験をする際に、単位として使用することを提唱します。

 

話がそれましたが、防寒テムレス表生地は薄手のポリウレタン製であるため、ざらついた岩肌(花崗岩など)に擦れた場合、穴が空いてしまうリスクを認識しておく必要があります。

 

まとめ

今回、防寒テムレスの耐久性を試すために行った4つの実験から得られた知見。

【1】防寒テムレスを車で轢いてもダメージはない(地面が整地されている場合)。

【2】防寒テムレスで湯を沸かした直後のアルミ製コッヘルに触れても問題はない。

【3】防寒テムレスにピッケルの先端を打ち付けると貫通してしまう。

【4】防寒テムレスをコンクリートに擦りつけると約17秒の時点で穴が開いている。

以上です。

防寒テムレスが持つ弱点や限界が、今回の実験にて一定の範囲で程度明らかになったと思います。防水テムレスを冬山で使用する方、使用を検討されている方の参考になれば幸いです。

今回の実験を終えて、一つアドバイスさせてもらうとしたら、防寒テムレスは耐摩耗性や耐切創性などには不安が残るので、雪山/冬山に持参する場合は予備を持っていくことをおすすめします。

 

※注意点※今回の実験は防寒テムレスが他社製品と比較して優れている・劣っているを明らかにするものではありません。

例えば、M社にAグローブという製品があったとして、それが防寒テムレスと比較して優れているのか、劣っているのかということは現時点では分かりません。なぜなら、M社のAグローブが防寒テムレスより優れている、または劣っているかを調べるためには、M社のAグローブでも今回行ったものと同様の実験を行わなければフェアでないからです。

グローブの耐久性を確かめる場合、今回行った実験が一つの参考となれば幸いです。

 

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