鷹見岩南山稜 クライミング

前々から一度行ってみたかった鷹見岩のマルチピッチルート(南山稜)。夕方には毎日雨が降るような難しいコンディションでも、日帰りで無理なく登れそう。比較的暑さに苦しめられなさそうな場所ということで、今回登りにいくことになりました。

 

場所:山梨県、奥秩父、金峰山、鷹見岩

山行日:2023年8月22日

種類:マルチピッチクライミング、日帰り

メンバー:ディーアイ、E中

 

鷹見岩 南山稜

 

ルート概要

鷹見岩(たかみいわ)は、瑞牆山と金峰山を結ぶ稜線の途中にある標高2092mにある巨岩です。

南山稜のルートの下部には高さ150mクラスの岩壁があり、それがクライミング対象として登られています。

アプローチは瑞牆山荘から富士見平小屋経由で2~2.5時間ほど。ルートは下部岩壁が6P 5.10c。上部は簡単なクライミングを交えて歩く岩稜帯となっています。

 

アプローチ①

瑞牆山荘からちょっと進んだところにある無料駐車場に車を停め、アプローチ開始。まずは富士見平小屋を目指します。

最初は何本か踏み跡があってちょっと分かりにくく、少しだけ迷いましたがすぐに登山道に合流できました。

最初はよく整備された道をガシガシ登っていきます

尾根まで登りあげると、瑞牆山がよく見えるベンチに到着

広い尾根上の道は緩やかな上りとなっています

ほどなく富士見平小屋に到着

富士見平小屋からは、瑞牆へ向かう道からは離れて金峰山方面へ。

トイレの脇に金峰山(鷹見岩)方面へ続くトレイルがあります

トラバース→広い尾根道→トラバース。道は良いので歩きやすい

クライミングのガイドブックには富士見平から鷹見岩分岐まで30分と書いてあります。これは一般コースタイムより厳し目な設定でした。富士見平小屋から、鷹見岩の分岐まできっちり30分ほどかかったと思います(厳密に測定してはいませんが)。

鷹見岩への分岐点には分かりやすい道標あり

 

アプローチ②

鷹見岩の分岐から、鷹見岩方面に少し進んだコルのあたりから一般登山道を離れ、クライマー道に入っていきます。

白いテープの巻かれた2本の木が目印

富士見平~金峰山登山道から鷹見岩へと向かうコルのところに、左右に白いテープが巻かれた細めの木が生えており、そこが南山稜へのアプローチ道への目印となっています。

わかりにくいですが一応踏み跡がありました

ハイカーが迷いにくいようにしてあるためか、最初の右に入っていくところは少しわかりにくかったですが、よくよく見ると踏み跡がありました。

それとない踏み跡をたどって下っていきます

幾分か下ったところに、ここが間違いでは無いと示す白テープが

フィックスロープあり

ケルンもあります

なんとなく付けらている踏み跡をたどっていくと、ギリギリ道に迷わないタイミングで、フィックスロープ、木に巻かれたテープ、ケルンなどの目印が出てきます。親切設計。

「えっ?こんなにトラバースするの?」「こんだけ歩いてるのにまだ着かないの?」とちょっと不安になるぐらいトラバースします。アップダウンもそれなりにあります。ちょっと不安になりつつも、フィックスロープとか、アプローチに使われる目印が随所にあるので、根気よく進んでいきました。

この洞窟が出てくるところだけ、ちょっと注意

フィックスロープを掴んで登り返し、最初に洞窟が出てくる場所があるのですが、そこだけ少し迷いました。木に白いテープが巻いてあるのですが、その先トラバースするようにしっかりした踏み跡がありますが、これは間違い。これは迷いトレースで、すぐに踏み跡は不明瞭になります。

登り返した先に洞窟が出てきたら、トラバースではなく下るのが正解です。よく見ると下った先の木にフィックスロープが巻いてあります。

その後も巻いて登ってしていくと…

鷹見岩南山稜の取り付きとなる洞窟が見えてきます

 

クライミング

1P 5.10c 15m

取り付きから見上げる南山稜1P目

取り付きはちょっと斜めっていて居心地は微妙。一応装備を展開できなくはないですが、洞窟が見えたら早めにクライミング装備を装着しておいた方が楽かも。

最初は左のクラックから登り始め、右のクラック→洞窟を抜ける

私(ディーアイ)がリード

連日夕立があるせいか、壁はベチョベチョ。湿っているとかそいういうレベルではなく、薄っすらと水が流れているんじゃない?ぐらいの濡れっぷりでチョークアップする気が一切起きないほどでした。乾いていれば普通に登れそうな気はしましたが、濡れているせいでいつ滑るかと気を抜けず、短いながらもグレード以上に疲れました。
あらゆる場所がベタベタに濡れており、今にも滑り出しそうな中、腕とカムを真っ暗なクラックへと強引に突っ込みつつ登りました。暗くてよく見えないところがあるので、ヘッデン点けて登っても良かったか。

フォローで洞窟を抜けてくるE中氏

洞窟の中は荷物が引っかかるので空身で行ければそれがベスト。

洞窟を抜けた先は明るくなっていて、そこに2本のボルトが打ってあるので、そこがビレイポイントに。

 

2P 5.10b 45m

E中さんリード。

最初はややクライムダウンして凹角へ。ちょっと濡れていて嫌らしい。本来は洞窟から続くクラックを直上してスタート?どちらにしても、メインとなる長いクラックへと合流します。

フォローで見上げる長いクラック

このピッチの長いクラックは素晴らしい内容でした。伝説的なクラシックルートの春うらら1P目を思い起こさせるような、見事なコーナークラック。傾斜は緩いのでじっくり登っていけます。カムが1セット+αぐらいだったので、E中さんはなかなかのランナウトで登っていました。

スラブは結構ボルト間隔が遠く、良いホールドまでは割とリーチーな感じ。初見でのリードはグレードよりも怖く感じそうだと思いました(私はフォローで登っただけ)。

フォローで2P目を登り切るところ

 

3P 5.8 10m

ボロボロの凹角のあと、ハングを右に

座って一休みする筆者

グレード以上に怖いピッチでした。5.8という割に手はすべてガバガバという訳では無いですし、トラバース中は足でしっかり立たないと行けない箇所がありました。

トラバースルートで、終了点となる木が奥まった場所にあるので、ロープのスタックに注意が必要。私はトラバースが始まる直前にビビってカムを決めてしまい、ロープが岩にガリガリ擦れることになってしまいました。

ロープ擦れを最小限にするため、セルフを延長して後続を確保した跡

 

4P 20m 5.7

チムニー

短いチムニーですが、お互いバックパックがあってどうしても登りにくかったので、無理せず木登りしてチムニー越え。チムニーの後は岩を乗り越て歩いて次のピッチへ。プロテクションを取れるような場所はありませんでしたが、それでも落ちて死ぬことはなさそうなピッチでした。

チムニーを越えると、立派なメインウォールが見えてきます

 

5P 25m 5.10a

メインウォールの登り出しは、私(ディーアイ)がリード。最初はトラバース気味に岩を登り、チムニーを跨いでいきます。写真ではわかりにくいですが、取り付きから終了点は割と分かりやすく見えています。

5P目をリード中

ムーブそのものは確かに5.10aですが、ボルト間隔は他のエリアでは「ややランナウト」程度に離れているので、落ちないように慎重に登っていきました。ボルト間隔は遠いし、カムを決められる箇所はかなり限定されています。グレード以上に緊張しましたが、岩の形状を巧みに使ったルート構成は登っていて自然に笑みがこぼれました。

5P目をフォローで登ってくるE中氏

 

6P 30m 5.10a

E中さんリード。

最初のボルトまではやや遠いので慎重に。それから、いろんなホールドが使えそうなスラブ/フェース壁をトラバース気味に登っていきます。

こちらもボルトは必要最小限な感じで、初見でのリードはなかなかの緊張感があると思います。5P目と同じく6P目もリードで登るためには、「5.10台で落ちない力」みたいなものが必要だと感じました。

6P目をフォローで登る筆者(ディーアイ)

 

一坪テラスと呼ばれる立派なテラス。2本の立派なアンカーが打ってあります。ここで一応登攀は終了となりますが、南山稜はまだまだ終わりません。

 

山頂へ

そういえば、天気は微妙で、3P目あたりから雨がパラパラ降ったり、時々陽が差したりと、夏山っぽい不安定な天気の中クライミングしていました。太陽が直接顔を出していないので、涼しいといえば涼しいのが幸いでした。

 

南山稜のクライミング終了点から、アプローチシューズに履き替えました。が、いきなりワンムーブがちょっと悪い岩が出てきます。ここはロープで確保してもらいました。それからは岩を巻いたり、岩稜を登ったりする歩きパートが続きます。

岩を巻いたり、登ったり。巻き道は割りと明瞭なトレースが付いています。巻く場合はそういったトレースを目印に。

西穂~奥穂縦走で出てくる馬の背の脆いバージョンみたいな岩稜。

多分奥に見えるあれが鷹見岩の山頂だろう

ロープはもうしまっちゃったし、岩稜を忠実に詰めていった場合、岩場にぶち当たったらクライミングシューズ+ロープを出さないといけない状況なる可能性あり。そうなったらめんどくさいので巻き道を選択。

岩稜を真っ直ぐ進むか、適当に巻いていくのかは各自のお好みって感じですね。

このでかいチョックストーンみたいなのは、面白そうなのであえて潜っていきました。トンネルを抜けると岩稜に出て、そこから最終ピッチは目前。

最後に出てくる5.8ぐらいの左上するクラック。流石にここではロープを出しました。舐め腐ってアプローチシューズのまま登ったら、まあまあ悪く感じました。

最後に出てくるこのクラックのピッチはE中さんがリードし、山頂にある三角点でビレイしてもらいましたが、その三角点は体重をかけて引くと動いたらしい…。

 

登ってきた鷹見岩の南山稜

鷹見岩から見た金峰山はガスの中

鷹見岩から瑞牆山方面

3P目を登っている途中から雨が時々パラパラと降っている状況でした。天気予報では午後から雨が降る予報だったため、のんびりしていても天候が回復することはなさそう。

鷹見岩山頂で行動食を胃の中に詰め込んで、クライミングギアを小さなザックに無理やり押し込んだら下山開始です。鷹見岩の山頂から、南山稜アプローチの分岐のあるコルへは5-10分程度。もと来た道をたどるように、富士見平小屋→瑞牆山荘の駐車場へと、歩きやすい登山道を快調に飛ばして下山しました。

 

感想

鷹見岩南山稜は、奥秩父のクライミングエリアで比較的遠いアプローチをこなすだけの価値のある、好ルートでした。

割りと時間がかかるアプローチと、冒険的な内容というアルパイン的要素あり。一方で最高グレードが5.10cで、花崗岩的なムーブがしっかり出てきます。アルパイン専属の人にとってはともすれば難しい部類のグレードだし、フリークライマーとしてはアプローチが大変な上に対して高難度でもない、どっちつかず感は確かに否めないのが玉に瑕。

そういった点もあってか、あまり話題に上ることはないルートなのかも知れませんが、岩の見栄えやクライミングの快適な内容は印象深いものでした。

 

感じたことがもうひとつ。各ピッチは割りとリーチーで、ボルトプロテクションの箇所は意外とボルト間隔が遠いです。メンタル的な部分を含めてか含めないのかはわかりませんが、各ピッチのグレードは、今の時代だともう1グレード上げた方がしっくり来る人は多いかも知れません。リーチがない人だと更にもう少し厳し目に感じるかも。5.10cがギリギリの人だと苦戦したり怖い思いをする可能性があるので、リードで挑もうという人は、5.11aぐらいのRPが出来た方が無難なのかな、という印象でした。

 

装備など

60mシングルロープを持っていきましたが、正直60mを持っていく必要はなく(引き上げに時間が掛かるだけ)、50mで十分でした。

悪天候時など、敗退の可能性を視野に入れる場合はダブルロープで挑んでも良いのかも知れません。

 

カムは#0.3~#3を1セット+#0.5と#0.75を追加で1つずつ。2P目のクラックは長いので、カムが2セットあっても良さそうですが、他のピッチでは1~2箇所ぐらいしか使うところは出てきません。

 

トポはこちらを参照

 

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