【8月】穂高岳 滝谷 ドーム中央稜・クラック尾根

人生初の北穂高岳/滝谷で登山っぽいクライミングしてきた時の記録です。

 

場所:北アルプス、穂高岳、滝谷

山行日:2022年8月28日~29日

種類:アルパインクライミング、テント泊

メンバー:ディーアイ、E中

 

夏の滝谷 ドーム中央稜・クラック尾根

この山行が決まったのが前々日。不安定な天気と猛暑にて、休みの日の行き先を決めかねていたところでした。そんな折、偶然休みが重なったクライミング仲間のE中さんからメッセージが届きました。どうせフリー(クライミング)に行ったところで暑くてあんまり登れないし、涼しい山の岩場でクライミングとかどうですか、劔とか穂高とか。みたいなノリの文章でした。

それじゃ、穂高の滝谷登ったことないので行ってみたいですと返したところ、E中さんもドーム中央稜とクラック尾根は未踏なので、せっかくいい機会だから行ってみましょうという話になりました。

上高地~涸沢経由だとバスによる時間制限が発生するので、それじゃ白出のルートから登れば深夜でもスタートできるからいいんじゃね?みたいな流れで行程決定。

そんなわけで、8月28日の1時ごろに松本に集合し、新穂高温泉を目指しました。日曜なので駐車場難民にならないか少し不安でしたが、天気がイマイチだったこともあり、深山荘の奥にある無料駐車場のスペースをなんとか確保できました。

 

アプローチ

新穂高温泉の無料駐車場に到着したのが2:30。天気予報だと曇のち晴れでしたが、霧雨みたいな感じで湿度はMAXな感じでした。

多分晴れる。天気予報でそう言ってるから他分大丈夫だと言い聞かせてスタートします。

午前3時に駐車場発。暗い中登り始めました

ヘッドライトの灯りを頼りに、蒲田林道を進みます

白出出合を過ぎ、渡渉点手前ぐらいでヘッドライトは不要に

雨は降ったり止んだり。予報が微妙に外れて雨はなかなか降り止まず

E中さんは、

「どうせ岩は濡れていて登れないから、急いでもしょうがないですね。ゆっくり登りましょう」

とか言っていますが、ほとんど休まずノンストップで登っていきます。詐欺師か。

雨なら雨で、稜線上でビールでも飲みながらのんびりするのも悪くない…。ビールを心の拠り所として登ろうと決意を新たに。

渡渉点にかかる橋

意外と要注意な白出沢ルート。長いはしごがあります

不安定な斜面のトラバース。鎖がなければ通行困難です

荷継小屋跡からは、いよいよ白出沢のガレガレ登りが始まります

白出沢の長いガレ場登りが半ばに差し掛かった頃、久しぶりのテント泊装備(+α)でガンガン登ってきた疲労のためか、両脚が攣り始めて大幅にスピードダウン。

E中さんは爽やかに

「ゆっくりゆっくり登るんで、気にせず登ってきてください」

とか言ったあと、容赦ないスピードで登っていきました。あまり待たせるのも悪いので、息も絶え絶えになりながら、必死に後を追いました。進みたい気持ちはあるものの、脚が攣ってるせいで休み休みしか登れません。

有名な『アビナイヨ』

やっと穂高岳山荘に到着

湿度はかなり高いですが、雨が止んでから間もなくして、岩は乾いていきました。

「岩が乾いてきたので登れそうですね」

と休憩もそこそこにE中さん出発。容赦なく置いていかれそうになったので、必死で後を追いました。ちょっとした登りでも息が上がるバテバテ状態。涸沢岳の登りでさえ辛かったです。

涸沢岳への登り

涸沢岳山頂から一度下り、北穂高岳へ

涸沢岳~北穂高岳間の一般路も結構悪い

ガスが時々かかる状態で、湿度も高かったですが、風の影響もあるのか岩はしっかり乾いていました。下手すりゃ大キレットよりも悪い箇所がある涸沢岳~北穂間ですが、岩はしっかりとグリップしてくれました。

 

ドーム中央稜

涸沢岳~北穂高岳間にある縦走路から、ドーム中央稜の下降地点に着いたのが10:20ごろ。

ドーム基部への下降路をチェック中

滝谷核心のひとつでもある初見でのアプローチ

ドーム中央稜へは、稜線にある縦走路から一旦下って行く必要があります。踏み跡はそれっぽいのがあちこちに錯綜しているので、どこを辿っていけばいいのか迷う場面もありました。縦走路から直接尾根(滝谷第3尾根)に向かう踏み跡もついていました。

III級程度のクライムダウンが2回出てきます。下りは慎重に

尾根上では無く左側をトラバース気味に下っていきます。合計2回、クライムダウンを行ってから、踏み跡を辿って尾根上へ。そこに、明らかにそれと分かるドーム中央稜への下降点がありました。

下降点には立派なステンレスハンガーが打ってありました

懸垂下降するE中氏

第3尾根T1の下降地点から懸垂する私

懸垂は25m(50m)ロープ1本で本当にギリギリの長さでした。安定した地面に降りられます。

懸垂下降した先すぐに、立派な岩壁がみえてどこを登ったらいいのかちょっと迷いましたが、目の前の壁は第3尾根の側壁。踏み跡は奥へ奥へと続いているのでそれを辿ってちょっと登りました。

第3尾根側壁?

踏み跡を辿って左上していきます

ドーム中央稜への取り付き地点です

ドーム中央稜1P目。凹角~チムニー

上の写真を最後に、せっかく持っていったカメラ(オリンパスOM-D E-M5 Mk2)がブッ壊れました。これから先の写真はスマホで撮影したものになります。

 

完全バテバテでぐったりしていた私。まともに登れるのかと不安でしたが、離陸すると普通に身体が動いて一安心。

北穂まではほぼ脚の力だけで歩いていたけど、クライミング時は手の力も推進力として使えます。何なら重い荷物をもってのアプローチよりもこっち(クライミング)のほうが全然楽。

1P目のチムニーをフォローする私

各ピッチの終了点には立派なハンガーボルトがありました

2P目をリード

凹角っぽいところからカンテへ。カンテを越えた後は絶妙なスラブを登る楽しいピッチでした。

2P目をフォローで上がってくるE中氏

ガスの沸き立つ滝谷

2P目終了点。ここにも立派なステンレスハンガーがありました

3P目はほぼ歩き



4P目はチョックストーン目指して凹角の登り

3P目の歩きに満足できなかったのか、E中氏が4P目も先行。ルートの途中に3本ほどカムが残置してあり回収を試みましたが、残念ながら回収できず。

5P目(最終ピッチ)をリードする私

5P目は私がリード。凹角から最後はハングを越えるとトポにはありましたが、肝心のハングがどれかよく分からず。最後はハンドサイズのクラックにジャミングを決めて登りました。

ドームの頭終了点より

最後の最後もステンレス製の立派なハンガーがありました。

登攀終了した時点でロープを解いても良かったのですが、足元が微妙だったためにコンテで縦走路方面へと向かいました。

ドームの頭から奥のコルへと歩いていきます

コル状のところから、簡単なクライムダウンを経て縦走路へ


登攀終了して縦走路に着いたのが13:30ごろ。

E中さんは「もう一本ぐらい登れそうですね^^」と驚きのタフさ。クライミングは普通にできたけど、アプローチの時点で脚筋が死にかけている私は、ドーム中央稜だけでお腹が一杯で、早くテント張ってビールを飲みたい気分でいっぱいでした。でもまぁ時間はまだあるし、折角滝谷まで来たんだしということで、フォローなら北壁のルート1本ぐらいいいですよということにしました。

ドーム中央稜登攀後、とりあえず荷物を取りに取り付きへと戻ります

 

滝谷ドーム北壁を偵察するE中氏

ドームの頭と縦走路からの間からだと北壁への取り付きはよくわかりませんでしたが、縦走路をやや南峰側に歩いた先から沢状のところをちょっと下り、15mぐらい懸垂したところから少し歩くと、問題なく北壁に取り付けました。

午後は日の当たるドーム中央稜と比べると、北壁は一日中日陰になっていて、風も抜けるので非常に寒かったです。北壁左ルート?を2PともE中さんのリードで登る(写真撮り忘れました)。

顕著なチムニーの左のフェイスにある浅くて細いクラックを登りましたが、普通に悪かったです。1P目は20m、2P目はハンド~ワイドハンドのクラックで50mロープいっぱいでドームの頭まで。

本日2回目のドームの頭

15:30登攀終了して縦走路へ。

 

この日、北穂のテン場は貸し切りでした

ビールで乾杯して、日が暮れると同時に就寝。

 

クラック尾根

なんでもこの日は夏一番での冷え込みだったそうで、帰ったあとのニュースで「乗鞍で初霜」とかやってました。夜は夏用寝袋でも寒くて何回か目が冷めました。

4時起床。ソロテントなので中で炊事できず、寒い中窓全開にして湯を沸かしコーヒーを飲む。私はカロリーメイトをコーヒーで流し込んで朝食としました。E中さんはチキンラーメン。完成して1分後には完食していました。

夜明け前に出発

北穂高岳山頂を経由し、クラック尾根を目指します

5時頃に北穂高岳山頂着。山頂をノンストップで通り過ぎ、大キレット方面へと下っていきます。

昨日は長いアプローチもあってバテバテでしたが、一晩ぐっすり寝たので体力はだいぶ回復しました。が、両脚はけっこうな筋肉痛。

 

B沢の下降点に着いたあたりで日の出

北穂山頂からいくらか下ったところに、クラック尾根への取り付きのアプローチ路であるB沢の下降地点がありました。

B沢下降点には一目でそれとわかるペイント有りです

5時15分、B沢下降開始

ネット上で悪い悪いと書いてあるB沢の下降ですが、かなり覚悟して行きました。まぁそれなりに悪いし普通に落石起きまくるんですが、「今日死ぬかも」感はあまりありませんでした。

錆びた残置に命を託して懸垂下降

上から見て左側の側壁に懸垂支点あり。コレに命を託すことを一瞬ためらいがないわけではなない。なるべく支点に衝撃を与えないよう、ゆっくり下降。先行するE中さんですが、傾斜が無いのでロープがなかなか流れず大変そう。一応50mロープを2本つなげて懸垂しましたが、空中懸垂となる場面は短いので、50mロープ1本で普通に降りられそう。そっちのが早いかも。

すべての岩が落石する可能性があるB沢をどんどん下ります

 

笠ヶ岳がよく見えていました

トポ通り、フィックスロープを登る。ガバが動くので注意

フィックスを登ってちょっと奥に行くと懸垂支点あり

やや右側に20mほど下っていくと、右手にわりと新し目のスリングが巻かれたピトン有り。

 

ボロボロの凹角を登って右へ。一応ロープを出しました。

B沢入り口→ガレ下り→懸垂→ガレ下り→フィックスロープ→懸垂→ボロ凹角→右へ歩いてクラック尾根の1P目と思しき場所にでました。

どこもボロボロで、どこからでも登れそうで、あちこちに残置があってどこが正規のルートなのかよくわからない中、私(ディーアイ)がクラック尾根の1P目を登りました。なんか適当に20mぐらい登ったら、ピトン2本ほど打たれた終了点?があったのでそこでピッチを切りました。

 

2P目、なんかよくわからいけど登ったら岩が固くなって快適になってきたらしい。50mロープをほぼ出し切ったところで、リードのE中氏からの終了のコールが。

2P目の顕著なリッジをフォローで登る私

3P目。私がリード。優しいリッジから、旧メガネのコルまで。本当はもっとロープを伸ばしたかったのですが、コルをちょっと下ったところでロープが擦れて重くなってしまったので、20mぐらいでピッチを切りました。

岩に囲まれたクラック尾根は、ザ・滝谷といったロケーション

メガネのコルから2P分つなげて登るE中氏

4P目はE中氏リード。いつ崩壊してもおかしくない旧メガネのコルから、一段上がったところにあるチムニーを超える。その先にはクラック尾根のハイライトであるジャンケンクラック。このロケーションで安定した岩を触れる素晴らしいピッチでした。

ランナーの数を最小限にして延長すれば、ロープドラッグが発生しなくて快適ですよね。みたいな考えのもと、50mいっぱいまでロープを伸ばしてジャンケンクラックの上で4P目終了。

 

5P目

5P目私リード。一段上がり、安定したテラスから正面のフェースだかクラックだかを登る。ここは左から巻いてガレ場を登っても良かったらしい(そっちの方が簡単)。

5P目終了点から見た図。よく見るとブロッケン現象が出ています

6P目。E中氏リード。トポだと大岩のあるガラガラのルンゼを大テラスまで登るみたいな感じになっていましたが、岩稜状をそのまま登る。途中残置が多めに残されたフェースが出てきて、そこが結構悪かったです。50mいっぱいロープを伸ばし、大テラスでピッチ交代。

 

7P目。私リード。凹角を登り、適当なテラスまで。テラスには4本の残置ピトンがありましたが、そのうち1本は指で引っ張ったら簡単に抜けました。

大キレットの縦走路がだいぶ下方に

 

最終ピッチ

8P目、E中氏リード。なんかよくわからないけど、岩が硬そうで登りやすそうなところをE中氏はランナーも取らず、すいすい登って行きました。

登ってどうぞのコールの後、適当に登って行ったら本当に北穂小屋の脇に出てそこで登攀終了。

本当に小屋から目と鼻の先で登攀終了

ガッチリ握手を交わして、E中氏と今回の滝谷クライミングの完登を喜びました。

9:15に登攀終了でした。B沢の下降が約1時間、クラック尾根の登攀が約3時間ぐらいでした。

 

それから北穂のテン場に戻って荷物を撤収。10時ごろ下山開始。

涸沢岳の登り返しが辛い。この2日間で酷使している脚の力を温存するため、鎖を力いっぱい引きながらの登り返し。

穂高岳山荘を経由し、昨日登ってきた白出ルートから新穂高温泉へ。

15時新穂高温泉着。明るいうちに帰ることが出来たのでまぁまぁ良いペースでした。

 

最後に

ガスの湧く高山帯でのクライミングという、アルペンムード満載の滝谷クライミングは素晴らしいものでした。

長いアプローチ、不安定な岩(落石のリスク)、山岳地形による厳しい気象条件など、いろいろなリスクファクターがある中で登らないといけないという難しさがありました。一方で今回登ったルートを登攀的な部分だけを抜き出して考えてみれば、現代的なクライミングをある程度嗜んでいる人にとっては、技術的にたいして難しいもので無いように思います。

今回一番辛かったのが、テントとクライミングギア一式を背負って新穂高温泉から穂高の稜線まで登った歩きの部分でした。

とはいえ、何年も憧れだった滝谷でクライミング出来たことは本当に嬉しく、この夏で一番の思い出になりました。

そのうち雪が着いた時期に滝谷を再訪してみたいですが、それはいつの話になるやら…。

 

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