【小川山】エレクトリックレディーランドとペンギンクラック

小川山でのクライミング記録。仏壇岩のエレクトリックレディーランド、モアイ岩のモアイクラック、ペンギン岩のペンギンクラックの継続登攀に行ってきました。

 

場所:長野県、小川山(廻り目平)、仏壇岩・モアイ岩・ペンギン岩

山行日:2023年7月24日

種類:マルチピッチクライミング、日帰り

メンバー:ディーアイ、E中

 

小川山クライミング 仏壇岩・モアイ岩・ペンギン岩

 

概要

言わずと知れた長野県の一大クライミングエリアの廻り目平(通称:小川山)。その奥に位置する仏壇岩、モアイ岩、ペンギン岩という三つの岩峰が今回登ってきた場所です。

 

登ってきた岩とルートは以下に

◆仏壇岩:エレクトリックレディーランド

4P 5.8 115m NP

 

◆モアイ岩:モアイクラック

5.10b NP

 

◆ペンギン岩:ペンギンクラック

2P 5.10a 45m NP

 

三つの岩峰は隣接する位置にあります。小川山の中でも最もアプローチが遠い部類の岩場です。岩のスケールはそれなりにあるものの、高難度の課題や長いマルチピッチのルートもないので、フリークライミングの対象というよりは、セミアルパイン的な印象を持ちました。岩があることは知ってはいたものの、登りに行く優先度はそれほど高くない感じ。

今後足繁く通うとは思えないので、三つの岩峰の代表的なルート(基本的にそれしかない)を一度に登ってしまおうという魂胆で行ってきました。

 

梅雨明け後の猛暑のため、高難度を登るにはコンディション的に厳しいこと。筆者の膝と腰と肘と肩が調子悪いことなどから行き先を加味して、今まで優先度が低くて登っていなかったマイルドなグレードのマルチピッチクライミングに行ってみようという話になりました。

 

アプローチ

小川山のトポによると金峰山荘から仏壇岩あたりまでは75分かかるということです。小川山にしてはかなり時間の掛かるアプローチですが、アルパインとして考えればこんなもんかで済ませられるアプローチ時間。

初見だとそれなりに迷う可能性もあるので(我々も迷いました)、最初は時間に余裕を持つと良いかも知れません。

まずは廻り目平を出発

林道を歩いていきます

長野県の松本市でも35℃の予報が出ている猛暑日なので、いつも涼しい廻り目平といえど、歩いていると普通に暑いです。朝から皮膚に突き刺さるような、強烈な日差し。

ケルンから踏み跡に入ります

フェニックスの大岩の幾分か手前のところに、目立つケルンがあるのでそこから踏み跡へ。フェニックスの手前からもアプローチできるようです。

クライマーによる踏み跡から、作業用の林道へ。道があちこち別れていたり、別の岩場の目印となっているケルンがあったりと、道が色々と錯綜しているので分かりにくい。仏壇岩がどの場所にあって、どの沢を目安にアプローチするかとか、おおよその位置関係を頭に入れておくと迷いにくい…かも。

作業用林道を離れ、アプローチ道へ。その後まもなくして、涸れた沢に出ました

涸れた沢の傍らに、分岐となる標識があります。とりあえず前半の迷い易いポイントは抜けた感じ。これから仏壇岩を目指す場合は、沢沿いに詰めていきます。

 

岩ゴロゴロの沢沿いを登っていきます

沢に転がる大岩を越えたところで、目的地である仏壇岩が見えてきました

沢を詰めていくにつれ、傾斜と足元の不安程度は増していきます

写真のルーフボルダーから左の樹林の尾根へ

樹林帯の方にケルンがあります。仏壇岩はここから突き当たる岩を基部から左側に巻くようにアプローチします。ペンギン岩へは沢を詰めて行っても到着できるかもしれませんが、この辺の沢筋はガレが酷く非常に歩きにくいので、一旦左の樹林の尾根へ入った方が良いかも。

迷い中

迷い中

迷い中

踏み跡は明瞭っぽくなったり、薄くなったり。どこからでも登れそうな岩壁が目の前に出てきたりで、迷わせてくれました。岩の基部をウロウロしたり、沢に出てみたり。

左奥にあるのがペンギン岩

結局どれがモアイ岩で、どれがペンギン岩なのかよく分からないままウロウロしていたら、最終的にペンギン岩へのアプローチ道に出ました。トポの写真で見たペンギンクラックっぽいルートが見えたので、この時点でようやく仏壇岩・モアイ岩・ペンギン岩の位置関係が把握できました。

最初に仏壇岩のエレクトリックレディーランドを登りたかったので、樹林の尾根へと戻って少し下り、モアイの前衛岩峰っぽいものの基部から左へと回り込みました。正規のアプローチ道にたどり着くと、ケルンが出てきて道が明瞭に。

 

モアイ岩の前衛壁から左に巻き、比較的ガレ度が落ち着いた沢を詰める

左に仏壇岩、右にモアイ岩

最後に明瞭なトレースのついた樹林帯を少し上がれば、エレクトリックレディーランドの取り付きに到着です。

沢の直登は強い日差しを遮るものがないので、大汗をかきました。沢は涸れていて途中で水を汲める場所はありません。アプローチが遠いのもあって、継続で登る場合は特に、無駄な装備を省きたいところ。それに伴って持っていく水分の量が最小限になりがちですが、この時期は脱水にも注意が必要。水分をどれだけ持っていけば良いのか、選択が難しいところ…。

 

アプローチから見える三つの岩峰。アプローチに使う沢からは、仏壇岩とモアイ岩が一塊に見えるのが、岩を判別を困難にしています。

仏壇岩、モアイ岩、ペンギン岩のどれがどれだかよく分からないと、アプローチで迷いやすいです。我々は最初、ペンギン岩をモアイ岩だと思っていました(角度によってはモアイ像っぽく見えなくもない)。

仏壇岩のエレクトリックレディーランドを目指す場合、モアイ前衛壁(便宜上の名称)の基部から左に回り込むイメージだと迷いにくいかも?

 

エレクトリックレディーランド

1P目 5.8 40m

仏壇岩、エレクトリックレディーランド登攀の始まりです。最初のリードはパートナーのE中さんから。

ところどころピトンが残置されていました。昔々このルートが登られていたころの名残でしょう。傾斜の優しいリッジのやや右側をガンガン登って終了点のテラスへ。

1P目をフォローで登ってくる私

1P目はテラス上にある太い枯れ木が終了点

1P目終了点から見る隣のモアイ岩。右の顕著なクラックがモアイクラック 5.10b

 

2P目 5.8 40m 3P目 5.5 10m

2P目をリードで登る私

2P目は私がリードしました。凹角とリッジの登りやすいところを40mほど登るピッチ。人が登っているところは大体イワタケが落ちているので目安になります。

随所にプロテクションが取れるクラックがありますが、本当に欲しいところに割れ目がなかったりすることもあるので、どこにプロテクションを取るのかが少し悩ましい。

ロープが擦れて重くなるのが目に見えていたので、簡単なところはランナウト覚悟で突っ込んでいくスタイルで登りました。カムは極力最小限に(最終的に5つ使用)。プロテクションはできるだけランナーで延長していきましたが、傾斜の緩いリッジと凹角を登るルートの性質上、ピッチの上部ではロープが結構重かったです。

我々は60mシングルロープで登りましたが、こまめにプロテクションを取っていきたい方はダブルロープで登った方が無難だと思います。

2P目途中から上を見上げたところ

2P目終了点となるテラス。すぐ上にある大テラスまで継続する。

2P目と3P目はリンクできるので、2P目終了点のテラスを越えて10mほど凹角を登りました。展望の良い大テラスが3P目の終了点。

大テラスの適当な岩にスリングを巻いて終了点を作りました。適当なクラックにカムを噛ませて終了点とすることも可能です。

 

2P目をフォローで登ってくるE中氏

フォローで登ってくるE中氏

 

下降

3P目終了点に着いた時点で、先行パーティが4P目(最終ピッチ)のトライ中でした。まだ少し時間がかかりそうだったので、さっさと次のルートを登りたい短気な我々はエレクトリックレディーランドの最終ピッチを諦め、下降することに決めました。

先行パーティが4P目(最終ピッチ)を登攀中

大テラスから松の樹林帯をクライムダウン

松にそれと分かる下降点のスリングあり

懸垂下降中

岩の途中に立派な下降用アンカーあり

仏壇岩とモアイ岩の間のコルへ

菊池さんの「マルチピッチルート スーパーガイド」によると、エレクトリックレディーランドの下降はダブルロープ50mが必須と記載されていますが、フロンティア・スピリッツの小川山本だと60m1本で下降可とあります。モアイ岩のコルに降りる場合、途中に下降用のアンカーが打たれているので60mシングルロープでも下降可能でした。

 

モアイクラック

モアイクラック見た目美しいものの、アプローチがめんどくさいせいで、あまり人気がなさそうな不遇のルート。

仏壇岩から降りたその足で、コルからトラバースしてモアイクラックを目指します。

 

仏壇岩~モアイ岩のコルからトラバース

5.4ぐらいのトラバース。ノーロープなので慎重に

岩の間を潜っていきました(結果的に潜らなくても良かったかも)

岩の間を潜り、ちょっと登ったらモアイクラックの一段上がったところに出ました。クラックに適当にカムを噛ませて、2mぐらいのショート懸垂をして快適なテラスへ下降。そこからモアイクラックを登るE中さんのビレイをしました。

モアイクラック(5.10b)を登るE中氏

グレードは高くないといえど、しっかりしたワイドクラック。クラックは素晴らしくキレイだし、また来るかどうか分からない場所なので登ってみたい欲求はありましたが、痛めている肘と肩が悪化しそうなので私はパス。

登ったE中さんは、「素晴らしいクオリティー」と絶賛していました。

 

このスリングを用いて懸垂下降

下のテラスまで

モアイクラック取り付きの岩に巻かれたスリングで、下のテラスまで懸垂下降。それから仏壇岩~モアイ岩間のルンゼまでトラバースし、ルンゼ内にあるスリングが巻かれた木から10mほど懸垂して、エレクトリックレディーランドの取り付きへと戻ることができました。

 

ペンギンクラック

エレクトリックレディーランド取り付き地点でデポしておいたザックを回収。それからペンギン岩に向かいます。

仏壇岩からペンギン岩に向かうアプローチは2つ。

①アプローチで登って来た道を途中まで引き返し、ペンギン岩へと登り返す。こちらは確実かつ歩行で行けるが、遠回り。

②仏壇岩~モアイ岩のコルまでルンゼを登り、ペンギン岩まで下降。こちらは直線距離的には近いですが、簡単なクライミングと懸垂下降が必要になります。

我々は手っ取り早く移動したかったので、②を選択。

仏壇岩~モアイ岩間にあるルンゼの登りは、5.7程度のクライミングがあります。とりあえず懸垂で使ったロープはそのままにしておいたので、ルンゼの入り口にある傾斜の強い部分は自分たちのロープを掴んでゴボウで登り返しました。

ちなみに、ゴボウで登り返そうとして足をかけたら、人間サイズの岩が突然剥がれ落ちました。周囲に人がいなかったので負傷者はありませんでしたが、岩の脆いところは常にこのような危険が潜んでいるので注意が必要ですね。

 

仏壇岩~モアイ岩間のルンゼを登ります。

ルンゼ上部のチョックストーンの登りは避け、となりの簡単そうな壁を登って仏壇岩~モアイ岩間のコルへ。5.7程度のごく簡単なクライミングでしたが、ノーロープなので慎重に。

 

コルからペンギン岩へと下る踏み跡へ入ったところで、下降用と思しきスリングとカラビナを発見。そこから60mロープ一杯でガレ沢の安定したところまで懸垂下降。そこから10mほど登った半畳ほどのテラスに、ペンギン岩(ペンギンクラック)の取り付きがあります。

ペンギンクラック(5.10a)を登るE中氏

ペンギンクラックはトポだと2Pとなっていますが、トータルの長さは45m。これならリンクして1Pで登れるということで、E中さんが登攀開始。傾斜が途中で変わるのでロープが擦れやすく、カムずらしやプロテクションの延長、ミニマムプロテクションとすることで、ロープドラッグを最小限にしながら登っていきました。そのような対処をすることで、ペンギンクラックは1Pで問題なく登れるようです。

ペンギンクラックの上部から

ペンギンクラックは最下部のルート取りが多少分かりにくいところがありましたが、クラックに入ってからは快適な内容でした。特に2P目のキレイに割れたクラックは、アプローチさえ良ければ人気ルートになれそうだと感じました。

ペンギンクラックの終了点から

ペンギンクラックを下降中。2P目のキレイに割れたクラック

途中にピッチを区切れるビレイステーションあり

岩の途中に立派なボルトの打たれた支点があります(スリングはボロいですが…)。そのため、60mシングルロープでも2回の懸垂下降で取り付きに戻ることができます。

2回目の懸垂下降は、60mロープでギリギリ。これで取り付きへ

後続のパーティがペンギンクラックにトライしていました

 

ガレた沢を歩いて帰ります

仏壇岩、モアイ岩、ペンギン岩のクライミングを終えたので、廻り目平方面へと戻ります。涸れ沢は落石高リスクの場所なので、最後まで気を抜かずに慎重に歩いていきます。

炎天下の中、干物寸前になりながらのクライミングを覚悟していましたが、この日は雲が思った以上に出てくれて、日差しは強くなかったです。仏壇岩周辺は風が爽やかに吹き抜けていたので、快適なクライミングが楽しめました。

林道まで戻ると、廻り目平周辺であってもそれなりの灼熱地獄だったので、今回仏壇岩周辺のクライミングを選択したのは正解だったと思います。

 

装備

シングルロープ60m

クライミングギア一式

アルパインヌンチャクー6本

クイックドロー4本

カム#0.3~#3を2セット、#4~#5を1セット。

エレクトリックレディーランドは、5.11や5.12とか登れる人ならカム1セットでも良さそう。モアイクラックは大きめカム2セットあった方が安心か。

 

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