母ちゃんと前穂北尾根に登ってきたよ! 【3-1】

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ウチの母ちゃんが若い頃から憧れていたルート、前穂高岳北尾根。

母が長年夢見ていたルートを無事に登れるよう、一緒に行ってサポートしてきましたよというのが今回から3回シリーズで始まる記事の内容です。

 

母ちゃんと前穂北尾根に登ってきたよ! 【序章】

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【写真】涸沢カールから見上げる前穂高岳北尾根(左上)

 

前穂高岳北尾根について

穂高岳概要

岐阜県と長野県の間にまたがる北アルプス(飛騨山脈)にある穂高岳(穂高連峰)

標高3190mの奥穂高岳(日本第三位)を盟主として、北穂高岳(3106m)、西穂高岳(2909m)、明神岳(2931m)、涸沢岳(3110m)、そして前穂高岳(3090m)といった急峻な岩稜で構成されたピーク群が印象的な山です。

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【写真】蝶ヶ岳山頂より撮影した穂高岳(穂高連峰)。写真で顕著な4つのピークを左から、前穂高岳、奥穂高岳、涸沢岳、北穂高岳

高岳では、一般登山道と名のついた整備された道でも、クサリやハシゴ場などが連続しています。稜線上は岩石が露出した厳しいエリアであり、一歩間違えれば滑落してしまうような、スリルと高度感に満ち溢れた登山が楽しめる山として知られています。

そのように岩に囲まれた穂高岳は、古くからロッククライミング(アルパインクライミング)の一大エリアとして、ロッククライマー(アルピニスト)たちを惹きつけていました。

 

クラシックルート・前穂高北尾根

穂高連峰の一角、前穂高岳(3090m)から派生する尾根の一つが、北尾根です。

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【写真】北穂高岳より撮影した前穂高岳と北尾根全景

沢岳や、北穂高岳から見ると、ギザギザした鋸状のスカイラインを形作っている前穂高岳北尾根はひと目でそれと分かるような存在感があります。

北尾根には一般登山道と呼ばれるクサリ・ハシゴ等で整備されたルートはなく、北尾根を登るという行為にはロッククライミング的な要素が含まれています。

前穂高岳北尾根の登攀の歴史は古く、初登は1924年7月、慶大パーティによって成されました。それ以来、北尾根は穂高における大クラシックルートとして、数多くのクライマーに登られています。

槍ヶ岳北鎌尾根、劔岳八ツ峰と並んで日本三大岩稜と呼ばれる前穂高岳北尾根。その北尾根を登るルートは、現在においては技術的難易度は低く、アルパインクライミング(岩登りを行いながら山頂を目指す行為)の入門ルートとして認識されています。

 

ウチの母ちゃんについて

ウチの母ちゃんは昭和の山ガールでした。

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20歳頃から山を始め、山岳会に所属していた頃は、毎週のように三重県の御在所岳に通い、藤内壁や前尾根などを登ったりしていたそうです。

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【写真】御在所岳の藤内壁。岩壁を登るクライマーの姿も見える

山1年生デビューで上松尾根から木曽駒ヶ岳を登り、春山合宿では天狗のコル~前穂高岳の縦走を行ったという話も聞きました。その他、北アルプス縦走登山、錫杖岳の登攀、海外登山などをやったことがあるという話も何度か聞かされていました(同じ話を何度もする)。

現役の頃はバリバリ岩を登っていたウチの母ちゃん。前穂高岳東壁を登るという計画も出ていたそうですが、所属していた山岳会のリーダー的存在が直前の山行で落石を受けて負傷。そのせいで前穂東壁の話は立ち消えに。

そうこうしているうちに、母ちゃんは結婚し子どもが生まれ(ディーアイら)、厳しい山からは遠ざかってしまったそうです。

現在の母ちゃんは、当時クライマーだったと言っても誰も信じてくれないような体型になり、現在は主にゆったりとしたハイキングを楽しんでいます。

ディーアイが大人になり、趣味として登山を始めるようになると、母ちゃんとは山の話をするようになしました。話の中で、前述の『前穂高岳北尾根』が憧れのルートだったということを何度も口にしていました(同じ話を何度もする)。

死ぬ前に一度は登っておきたい、とも。

 

北尾根を目指したきっかけ

ディーアイは職業柄、人の死に立ち会うことが何度かありました。

そんな出来事を何度か体験するうちに、「大切な人を亡くした時、自分はどんな感情を抱くことになるんだろう」ということを何となく考えるようになりました。

いざその状況になった時、自分の中に後悔が残るのは嫌だなぁと。

 

とある日、ウチの母ちゃんから電話がかかってきました。

母ちゃん「今度ね~、今まで行ったことなかった不帰の嶮(かえらずのけん:北アルプスの後立山にある難ルート)に行くことにしたんだけど、ちょっと心細いから一緒に来てくれん?」

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【写真】不帰の嶮

ディーアイ「無理だよ。仕事も忙しいし。そんな突然に休みは取れないしさー。しかも不帰の嶮って、難所とか言っても一般ルートじゃん?別にロープ使うわけじゃないし、もし落っこちたとしても、こちらとしては見てることしかできないしさ。通報が早くなるか遅くなるかの違いしかないわ。どうせシーズン中は誰か登山者いるだろうし、一人だけで心細いってことはないと思う」

いつも我が家で交わされる、普段通りの親子間コミュニケーションです。そのあとは少しの間何でもない会話をしてから、電話を切りました。

そして、何となく考えました。

 「一般登山道ではロープを出さない。そう言えば、母ちゃん前穂の北尾根に登りたいって言ってたな。あそこは、安全確保のためにロープ使うなぁ

 

今年(2018年)に入ってブログを初めることになり、登山以外のブログも参考の為にいろいろと読むようになりました。そんな中で、『オカン』というテーマで面白い記事をみつけました。

www.droneskyfish.com

 

親孝行…か。そういえば親孝行っぽいことは、思い出せる限りでは何一つしていないような気がしました。(そういうことを気にする母ではないですが)

ディーアイは、仕事は一応やっているけど職場では有能キャラではありません(早く帰って山行きたいばかり考えている)。一応趣味をやりながら生活していける分の金は稼いでいますが、決して金持ちではありません

そんな社会人としては微妙な人間だけど、山での遊びについては、ある程度できることがあります

 

自分がロープを引いて安全確保を行いながら、一緒に母ちゃんが長年憧れていたルート、前穂高岳の北尾根を登ろうということを考え出しました。

思いついたことをすぐさま母ちゃんに連絡すると、二つ返事でOKをもらいました。そういうわけで、前穂高岳北尾根の登攀計画が始まりました。

母ちゃんには、とりあえず前穂北尾根に行く前に、体力づくりと、岩稜帯を含む登山ルートを積極的に歩いてもらい、岩慣れしておくようにお願いしておきました。

母ちゃんは錆びついてはいても元クライマー、以前には夏の宝剣岳の登山道を、体型を感じないほどスイスイと越していたので、個人的にはそこまで大きな不安を感じてはいませんでしたが。

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【写真】中央アルプスの宝剣岳。岩稜に登山道がある

 

強力な助っ人登場

母ちゃんが元クライマーと言っても、現役で登っていた時は30年以上昔。現在のクライミングギアは当時とはかなり違っていて、完全に浦島太郎状態だそうです。(好日の店員に「ゼルプストください!」と言っても通じなかったそうな)

もし母ちゃんに、ATCとか渡して「ビレイ(確保)して!」と言っても、「これ使ってどうやってジッヘルするん?」みたいな返事が返ってくる可能性も大。11mのロープで肩絡みの確保とかやってたような世代です。こっちも忙しいので、そんな浦島太郎相手に、実家に帰って練習してやれるような時間もなかなか取れません。

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【写真】Black Diamond社のビレイデバイスATC Guide

て、そんな母ちゃんと一緒に前穂の北尾根に2人で行くのは正直言って不安が強すぎます。確保と懸垂をお任せするのには、リスクが高い…。

 

そんな困った時には、頼りになる友人を召還です。

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信州山岳ガイド

マッシーの登場。

冬の西穂で出会って以来意気投合。ディーアイと何度も個人的な山行を共にしている、山で非常に頼りになる存在です。

音楽業界に古くから在籍し、某ELTとかでバックミュージックを演じるという華やかな舞台で数十年活躍。それから突如として一転し、現在では山にのめり込みすぎて山岳ガイドに転向。普段は安曇野の山奥に済み、ガイドの傍ら自然調査とかやったり、畑で野菜育てたり、キノコ採りしたりして生活している変なオヤジ個性的な人生を歩み続ける山の友人です。

 

今回の山行では、ディーアイが先行してクライミング&ルートファインディング。真ん中に母ちゃんを挟み込んで、マッシーガイドが後ろから安全確保のために目を光らせるという図式で登攀を行うことになりました。

 

前穂北尾根はアルパインクライミングのルートであり、不確定な危険要素も大きい場所です。マッシーガイドとは個人的な山行を何度も共にしていますが、今回はいつもと違って家族間での山行に同行してもらうという形になります。ある程度のリスクを背負っての行動にもなるため、友人のマッシーガイドには、決して安くない謝礼金をお支払いしました

プロフェッショナルに時間を使わせ、いくらかのリスクを背負わせる以上、たとえ友人でも相応のお金を支払うことが礼儀だと思っています。(プロ相手にタダでやってよ!精神は嫌い)

 

北尾根登攀適期について

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前穂高岳北尾根の登攀時期ですが、9月初旬に決めました。

理由はいくつかあります。

・早い時期は雪渓が残っているのでNG→アイゼン持たず軽量化させたい。

・また、早い時期は岩も不安定なのでNG→リスクは最小化したい。

・紅葉後などの遅い時期はNG→日が短くなり、行動時間も短くなる。

・お盆休み、紅葉の時期はNG→人が多く訪れ、混む可能性があるため。

・土日祝の登攀はNG→人が多く訪れ、混む可能性があるため。

上記を考えた結果、2018年9月2日(日曜)~9月3日(月曜)の日程に決定しました。

9月2日(日曜)は上高地発、涸沢ヒュッテ泊。山小屋泊として装備は軽量化させます。翌日が平日となるため、涸沢近辺はそんなに混雑しない計算です。

9月3日(月曜)は早朝に涸沢ヒュッテ発。前穂高岳北尾根を登攀し、前穂登頂後は重太郎新道を経て岳沢に降りる予定。そしそのまま上高地に下山するという計画にしました。

 

こうして着々と準備を整え、そして2018年9月2日、いよいよ前穂高岳北尾根の登攀に向けての山行が始まるのでした…。

 

前穂北尾根シリーズ

www.dimountainphotos.com