ダウンジャケットと化繊(マイクロファイバーの中綿)保温着を実際に濡らして着比べてみた記事です。
ダウンと化繊の保温着を水で濡らして着比べてみた記事
はじめに
アウトドアウェア素材の一般的な知識として、「ダウンジャケットは濡れると保温力が落ちるので、濡れが弱点。反面、化繊(マイクロファイバー製の中綿)が入った保温着は、暖かさこそダウンには及びませんが、濡れても保温力が落ちない」というものがあります。
自分も当ブログの記事中で、何度も知ったようなツラしてそんなことを書きました。
だがある時、私はふと思いました。
「濡れたダウンがどれだけ保温力が落ちるか、俺実際に体験したことないわ…」
アウトドアを嗜む者としては当然のように、ダウンが濡れると保温力が落ちるということを、知識として持っています。それ故に、これまではダウンウェアは極力濡らさないように扱ってきたので、実際にダウンが濡れたらどうなるのか、体験したことがなかったのです。
同じく化繊の保温着は濡れても暖かさを保てるという安心感はありますが、これまでに一度として、ベチャベチャに濡れた状況で着たこともありません。
体験したこともないのに、他人様に向かって偉そうに「ダウンは濡れると暖かくないからダメね」とか「化繊の中綿は濡れてもヘッチャラよ」とか言うのはアレかもしれませんね。
というわけで思いついたのが今回の記事でご紹介する内容です。
内容
・ダウンジャケットを濡らして着る
・化繊(マイクロファイバー中綿)のジャケットを濡らして着る
ダウン、化繊両素材の保温着を実際に濡らして着比べてみることで、「ダウンは濡れると保温力が落ちる」と「化繊は濡れていても暖かい」が本当なのか検証する。
ロケ地
ウチのシャワーでダウンウェア濡らして「寒い~」とかやるのは嘘くさいので、それなりのフィールドで実験です。
山中で実際に身体を濡らすのは低体温症のリスクが伴うので、容易に安全地帯へ退避できるよう、駐車場からほど近いところで実施しました。
実験に使用したウェア
ダウンウェア代表…
パタゴニアの定番人気商品・ダウンセーター(通常版)よりも更に多くのダウンが詰め込まれ、ひときわ高い嵩を持つ高品質ダウンジャケット。寒冷地での停滞時に凍えるような寒さから着用者を守ってくれる、頼りがいのあるウェアです(現在廃盤)。
パタゴニア・メンズ・ダウンセーター(通常版)
化繊中綿ウェア代表…
高山での最も過酷なコンディションを念頭にデザインした、パタゴニア製品の中で最も保温性に優れた化繊のインサレーション入りフーディ。伸縮性を備えたハイロフトの100グラム・ハイパーDAS・インサレーション入り。あらゆる動きに対応する伸縮性を備え、寒い状況で保温性を確保。
ダウンは本当に濡れると保温力がなくなってしまうのか。化繊は本当に濡れても暖かいのか。(自称)アウトドアに詳しい人が「当たり前」と思っている知識は果たして本当なのか。それらを確かめるべく、高機能アウトドアウェアのガチンコバトル(?)開始です。
ダウンウェアを濡らして着てみた
それでは始めていきましょう。
まず、冷たい風から私を守る、暖かなダウンジャケットを準備します。
ジャケットの表面生地に施されたDWR(耐久撥水加工)のおかげで、水にさらしてもなかなか中まで濡れてくれません。寒いし腹減ったし、ちょっと面倒になってきた…。
ダウンジャケットを水中にぶっこんで濡らした方が早いですね。
ダウンが濡れて、だいぶロフトが減少してきた感じです。
ダウンのロフトを完全に潰すため、更に水の中に沈めてみました。
ロフト(ダウンが入っているボックス上の構造)内に水がたまっているので、絞ってジャケット内の水を出します。生き残った、まだ濡れていないダウンを潰すという第二の目的もあります。
水が滴り、ロフトが潰れたダウンジャケットは、見るからに暖かそうじゃありませんね。
濡れたダウンジャケットを着た瞬間、上半身が一気に濡れました。それと共に、一気に体温が奪われていくのを感じます。
濡れてペラペラになったダウンジャケット、まず着ると濡れたダウンジャケットによってインナーも一緒に濡れてしまって、それで一気に冷えます。
その後、微妙に予想外だったのは、濡れたダウンジャケットでも無いよりマシだったこと。濡れたダウンジャケットを脱いだ後、インナーのみになったら一気に寒さを感じました。
濡れたペラペラのナイロンウェア状態になったダウンジャケットですが、一応防風機能とかは残っているようなので、濡れたインナーだけで過ごすよりは、濡れたインナー+濡れたダウンジャケットで過ごす方が暖かかったです。
はたまた、微妙にダウンのロフトが完全に潰れておらず、デッドエアが生まれるスペースが幾分かあったのか…。
もうひとつ感じたことは、ハイロフトダウンセーターに施されたDWR(耐久撥水加工)は結構協力で、多少水流に晒したぐらいでは中まで濡れてこないので、自分が思っていたよりも、ダウンは水に対する抵抗力があるのかも知れません。また、実際のアウトドアフィールドで、ダウンジャケットがこれだけ濡れることは(沢に落ちるとか、ザックが水没するとかしない限り)ないと思うので、もちろん山の天気や条件にはよると思いますが、ダウンの扱いにはそこまで神経質にならなくともよいかも知れません。
・ドライなインナー(シャツ等のベースレイヤー)の上に濡れたダウンジャケットを羽織ると体温が一気に奪われる。
・インナー、ダウンジャケット、両方べっとり濡れてしまった場合、ロフトの潰れたダウンジャケットでも着た方が断然暖かい。
・ダウンのロフトを全部潰そうと思ったら、水の中に突っ込むべし。
化繊中綿ウェアを濡らして着てみた
では、続いて化繊ウェアを濡らしてみましょう。
ウェットな環境でも暖かさをキープしてくれる(はず)のジャケットを準備します。
化繊ウェアを完全にウェットな状態にすべく、水の流れに容赦なく晒します。
ウェアの表面に施されたDWR(耐久撥水加工)のせいで、なかなか内部まで水が染み込んできてくれません。
ハイロフトの保温着を中まで濡らすためには、水の中に突っ込むのが一番手っ取り早いですね。
中まで濡れたハイパーパフジャケットは、先程実験に使用したハイロフトダウンセーターよりも断然重かったです。中綿の材質や、ウェアのボックス構造によって保水量が変わるためでしょうか。
絞ると結構な量の水が出てきましたが、まだまだ保水しているようでまだまだ重い。
ダウンジャケットほどの著明なロフトの減少はありませんが、化繊の保温着も濡れるとしなっとしてしまい、あまり暖かそうではありませんね。
では、この濡れた化繊の保温着を着用してみましょう。
濡れた化繊ウェアのナイロン表面が肌にピタッと張り付いてしまうので、袖がなかなか抜けません。
ハイパーパフジャケットは濡れるとかなり保水します。水に漬け込むと元の数倍の重さになりますので、しっかり絞って水気を切ります。手で絞るのには限界がありますが…
この日の外気温は-2℃。そんな環境で、冷たい水の中に突っ込んで化繊ジャケットを濡らしたので、着用したその瞬間はかなり寒かったです。しばらく経つと体温で少しずつ暖かさが戻っては来ます…が、上半身がすっかり濡れてしまっていると、やはりポカポカとした暖かさを感じる状態にはなりませんでした。
う~ん、一般的に「化繊は濡れても暖かい」と言いますが、これだけベッチャンコに濡らしてしまうと、着た時に濡れた化繊ジャケットのせいでインナーまで濡れてしまうので、身体が冷えました。高機能の化繊だとか言っても、やっぱり濡れると体温は奪われるので寒いです。
また、ハイパーパフジャケットは構造的なものなのか、中綿の性質かは知りませんが、濡らすとダウンセーターよりも水を多く含みました。ハイパーパフジャケットは濡れて暖かかったとしても、濡れるとかなり重いので濡らしたくはないです。
・濡れに強いと言われる化繊でも、しっかり中まで濡れてしまうと結局それなりに寒い。
・構造or中綿の性質からか、化繊ウェア(ハイパーパフジャケットは)濡れるとダウンジャケットよりも明らかに重くなる。
・水に漬け込むレベルの濡れ方だと、化繊の保温着はダウンウェアよりも明らかに暖かいというわけではなかった。
総評
ここまでしっかり、中まで濡らしてしまうと、ダウンだろうが化繊だろうが着ると体温を奪われます。
保温着が必要となるような寒い環境では、やはり体温を失う「濡れ」という状態を避けるのが何よりも大切ですね。濡れた化繊は濡れたダウンよりはロフトの減少が少なく、多少は暖かいような気もしますが、結局のところはベッタリ濡れると化繊でも寒かった、という印象です。
まぁ、今回のような濡れ方をするケースは、山では稀だとは思いますが…。
沢にポチャリとか、大雨でザックに浸水とか、テントに浸水とか、何らかの原因でレインウェアを失ったとか、そんなことが起きなければここまで濡れることはないかと思います。
流水にちょっと晒したぐらいでは、撥水加工されたダウンジャケットは簡単に中まで濡れてくれなかったし…
雨(雪)の中でビバークするとかなったら、やはり化繊の方が安心感がある…?
実用的か、実践的かと言われると微妙に首を傾げざるを得ない今回の実験ですが、何からかの形でウェア選びの参考になれば幸いです。
今回の実験を行うにあたり、水の中に手を突っ込まなきゃいけなかったので防寒テムレスは必須装備でした。
実験後、車に暖かい飲み物を積んでおいてよかった。
- 作者: 羽根田治,飯田肇,金田正樹,山本正嘉
- 出版社/メーカー: 山と渓谷社
- 発売日: 2012/07/23
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濡れが原因となり低体温症になることも。遭難事例に学ぶ。
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