荒船山 艫岩 昇天の氷柱【アイスクライミング】

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西上州にある日本百名山・荒船山(あらふねやま)の北面には、艫岩(ともいわ)と呼ばれる100m以上の高さを誇る垂直の大岩壁があります。

その艫岩の一角、深くえぐれた岩溝の中に、冬季にだけ出現する氷瀑があります。それが今回登った『昇天の氷柱』。冬の間だけ登れる艫岩の登攀路。

西上州・荒船山を代表するアイスクライミングルートを登ってきた記事です。

 

場所:西上州、荒船山

山行日:2022年2月7日

種類:アイスクライミング、日帰り

メンバー:ディーアイ、E中

 

荒船山 艫岩 昇天の氷柱

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昇天の氷柱概要

荒船山・艫岩 1331m

ルートグレード 4級上

最高ピッチグレード VI-

ピッチ数 4

登高距離 約115m

 

内山峠登山口

昇天の氷柱、一度は登ってみたいと思っていたものの、ここ数年は氷結が微妙かつ一緒に登れるパートナーがなかなか得られない状況でした。

アイスの当たり年となった2022年シーズン、2月の初旬。山仲間のE中氏から一緒にどこか登りませんかとのお声がかかりました。昇天行きを提案したところ、E中氏からは快くOKを貰えました。

ようやく念願が叶い、E中氏と荒船山の内山峠登山口へと向かいました。

 

内山峠・荒船山登山口

 

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内山峠駐車場へ到着。平日なので誰も居ないかと思ったら、クライマーらしき車両あり。同じく昇天の氷柱狙いということでした。我々は一足先に準備を整え、ハイスピードで登山道を歩き出しました。

 

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夜が明けるところ。遠くに見える切り立った部分が艫岩。

 

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雪が出たり、消えたり、アップダウンが続きます。

 

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艫岩にだいぶ近づきました。

 

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一杯水。ここから登山道を離れます。

一般道で言えば、ここから艫岩の登りに差し掛かる急登の手前。一杯水という標識のある場所が、艫岩のクライミングルートへの分岐点になります。

艫岩を登りきった後にはこの一杯水へと戻って来るので、ハーネスやクライミングギアなど、登攀装備一式を装着しました。

 

艫岩基部

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一杯水の標識の裏手へと少し登り、そこから踏み跡を頼りに下っていきました。

 

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大岩壁を右手に見ながら、基部をトラバースしていきます。

 

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雪が少なく、艫岩の基部は小さな石がゴロゴロしていたのでクランポン装着していると、足を取られて結構歩きにくかったです。

数日前に攀船記(艫岩にあるミックスルート)を登ったというE中さんからルートの話など聞き、初めて訪れる私は半分観光客みたいな気分。岩を見上げては写真を撮ったりしていました。

 

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屋根状の大岩を左から回り込むと、目指すルートはすぐそこ。

 

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昇天の氷柱、1P目の氷瀑。

 

昇天の氷柱登攀

氷柱を前に改めて準備を整え、登攀開始。

E中さんが以前フォローだったという1Pと3Pをリードしたいとのことだったので、私(ディーアイ)は2Pと4Pを担当することになりました。

 

1P目

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最初は80°ほどの安定した氷瀑登り。その後、トンネルが出てくるが穴が細くてくぐれず、薄氷や岩にアックスを引っ掛けながら登る所あり。リードだとプロテクションがとりにくく、緊張する箇所でしょう。

穴の後は短い氷瀑をちょいと登れば左手に太い木がありビレイ点になります。

ロープは約40mほど出しました。氷質は固く安定しておりVI+ぐらい? ドライな箇所が微妙に悪かったです。

 

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終了点の木。

 

2P目

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2P目は私がリード。最初の氷柱が下まで繋がらない年もあるようですが、今回はバッチリ氷結していました。ところどころ水氷で、ガチガチの箇所もあればサクッとアックスが刺さるところが混じっていました。氷結がしっかりした場所を見定めてスクリューを決めていきます。

最初の比較的立った氷柱を10mほど登れば、後は緩やかな階段状を半分歩きを交えて登っていきます。2P目はIV-ぐらい? とはいえ、その年の氷結状況によってグレード感は変わってくるので、ここで体感グレードを書いたところであまり意味はないのかも。

2P目は終了点までロープが25mぐらい出たと思います。

 

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3P目の手前はテラス上になっていて居心地は良さそうでしたが、ハンガー類は見つけられませんでした。仕方なく氷床にスクリューを2本決めて終了点としました。

カムやチョック類があればクラックで支点が作れるかも知れません。3P目の氷柱で終了点を作ることもできますが、氷柱の真下ビレイは避けたいところ。2P目を20mぐらい登ったところにあった手前の木でも支点は作れそうだし…まぁ、考えれば色々選択肢はありそうなので、各個人お好みで良のかも。

 

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フォローで登ってくるE中氏。

 

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2P目終了点。3P目を前にしたところの図(E中氏撮影)。

 

3P目

いよいよ始まる昇天の氷柱の核心となる後半パート。

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氷結が甘い年には氷瀑が細く、ドライを交えての登りになるという3P目ですが、今シーズンはバッチリ凍っており、氷は非常に硬かったです。

プロテクションは氷だけでなく、右壁にあるハンガーも使えばスクリューを打つ手間も省けます。

25mほどロープを出したところで、ビレイ解除のコールが聞こえてきました。

 

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安定した登りで抜けていったE中さんに続き、私もフォローで登ります。氷は立っていますが、細い岩溝を登っていくので左右の岩でステミングができ、腕の力を温存しながら登っていくことができます。フォローで比較的緊張感がなかったのもあってか、ほとんどパンプせず。右壁は薄くハングしており、外傾したホールドも多いので、クランポンでのステミングは足を置く位置や体勢にやや気を使う必要がありました。

 

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3P目を這い上がってくるディーアイ。

ちなみにこの日は冬型の気圧配置となっており、岩溝の中は日も当たらず、風も吹き抜けるのでビレイ中はかなり寒かったです。標高は比較的低いので八ヶ岳のような、心から冷えるような寒さは無いものの、寒いものは寒いのです。

 

4P目

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3P目終了点より。背後にはニードル状の岩峰が見えます。

ちなみに終了点はガッチリとしたハンガーボルト2つ。

 

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4P目(最終ピッチ)。昇天の氷柱名物の笠氷は発達しておらず。雨が少なかったためか、氷はかなり細い感じでした。

 

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4P目は私がリードで行きます。氷が細く、下から見上げた感じではどこが最後のプロテクションとなるか不明だったので、スクリューをこまめに決めながら登っていきました。比較的氷が固まっている場所や、左壁にある腐ったRCCボルトなどを利用。最終的にはそんなにランナウトせず上まで抜けられました。

両壁が迫ってきているところを登るので、アイススクリューのクランクを回そうとすると肘が当たったりして、プロテクションの決める姿勢や位置も、今までと違った視点が必要と感じました。

岩壁にステミングやバックアンドフットをやって腕を休めたり、氷結が薄い箇所ではクラックにアックスを引っ掛けたりと、純然たる氷登りとは違った動きが出てきて面白かったです。

 

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氷瀑を登りきって、寒かったので陽の当たる場所まで歩いてから、その辺に生えていた木でフォローのビレイ。ロープは約25mぐらい出ていたと思います。

 

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終了点から少し歩けば荒船山の登山道と合流します。昇天の氷柱があるのは風が吹き抜け、寒くて薄暗い岩溝。そこを抜け切った先にあるのは、ポカポカの日当たりの良い台地。登りきると環境が激変して、天国のような居心地の良さを感じました。

 

登攀終了~下山

艫岩のてっぺんに来たのは初めてだったので、観光客気分でちょっと寄り道。

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折角なので展望台の方にも立ち寄ってみることに。

 

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艫岩展望台からの景色。

 

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艫岩展望台より。登ってきたルートが少しだけ見えている?

 

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快適そうな荒船山避難小屋

 

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昇天の氷柱終了点からは、快適な登山道を通って下山

 

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下山路はところどころ氷結していたと思えば、土が出ている箇所もあったり、非常に歩きにくい感じ。アイス用のクランポンでは大げさ過ぎる感じなので、途中からは外して歩きましたが、アップダウンのある帰り道は何回かコケました。

アプローチではチェーンスパイクや軽アイゼンなんかがあると便利だと思います。

 

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下山道から振り返る艫岩。

途中迷い尾根に迷い込みそうになったり、凍結したハシゴで滑って滑落しそうになったりとちょっとしたハプニングあり。山は最後まで何が起きるか分かりませんね。

 

昼前には下山完了。佐久でパンを買って帰りました。

 

装備について

ロープは50mダブルを使用。

 

アックスはお互いノミックを使用。

 

最近アイスでお気に入りのグローブ。

 

フォローが最低限の食料等を入れた小さなザックを担いでいきました。この製品は軽いだけでなく、他社よりもいくらか丈夫な生地が良いと思ったので買いました。

 

コップ無しで飲めるタイプの魔法瓶を選択。山では山専ボトルだけが正解ではないと思います。この製品は山専より軽くて安いのが良いです。

 

パタゴニア・ナノパフ・フーディ

ビレイ&フォローが着用。体格が同じぐらいだとビレイジャケットが着回せて都合が良いです。ビレイパーカーとして設計されていないナノパフは、シェルの上に羽織ると結構タイトで動きづらかったですが、我慢すればなんとかなります。西上州ではこれぐらいの保温力があれば、我慢すればあとはなんとかなります。

パタゴニア

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アプローチにチェーンスパイク類があると便利です。

 

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